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叶は天然のふさふさ睫毛の綺麗な瞳に、今にも零れ落ちてきそうなほど大粒の涙を浮かべていた。 叶の涙なんて出会ってから初めて見るのでどうしていいか分からない。慌てて立ち上がりワタワタしていると、机越しに腕を伸ばしてきてガバッと抱きつかれた。 「ぉわっ…!?」 「や~す~な~り~!」 「な、なに!!なんだよ?え?…だ、大丈夫か…?」 俺の首に腕を回してひしっと抱き締めてくる叶に、なんだどうしたと困惑しながらも華奢な背中に腕を回しポンポンと軽く叩いてやる。 叶と違って泣き虫な俺は昔よく親にこうして背中をポンポンして貰っていた。これが一番落ち着くのだ。 俺の行動にどう思ったのかは分からないが余計にギュウウと力が強くなる。ちょっと苦しい。 「あたた…ちょ…叶っ、苦し」 「安成ごめんね!俺、気付いてやれなくて!!」 「…は!?ど、どういう意味…」 耳元で泣きじゃくるように喚かれ、顔を見ようとするが逃すまいとヘッドロック並みに腕で固定され全然動けない。し、絞まる、絞まっちゃう…! 「自分が平凡なことにそんな悩んでたなんて…!!」 「……え、……えぇ!?」 そうだっただろうか。俺は自分が平凡なことにこんなにも悩んでいたんだっけ…? 「大丈夫だよ、安成!安成は平凡男子のなかでも上の上だから!平凡のトップを行く男だよ!?憧れちゃうね!」 「………」 俺はたまにこいつに嫌われてるんじゃないかと思う時がある。 なんだ平凡のトップって。どういう基準でトップを決めるんだ。しかも平凡のなかの上の上ってそもそも平凡が上中下の中なのだから、そのなかの上って…駄目だ。ややこしい。とりあえず喜んではいけない気がする。 「安成…」 しばらくピーピー泣いていたが、少しすると落ち着いたのか名前を呼ばれ、顔だけが離れる。ものすごく近い距離で叶の顔を見ると、目の周りが赤く鼻も赤い。本気で泣いていたのかとビビると同時に、俺のことでこんなにも泣かせてしまったことが可哀想に思えてしまう。可愛い顔が台無しだ。 「安成は今のままで充分だよ。普通だろうとビビリだろうとそれが安成のアイデンティティなんだし、そんな安成が可愛くて俺は友達になったんだ。…俺は変わって欲しくないよ」 叶の声は涙声だ。 そんな泣く程の話でもないのに、ほんと。 もう。 「…バカ…泣くなよ。ありがとな…叶」 そして俺たちは2人、顔を見合わせて微笑みあった。

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