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「っ…」 急に立ち止まったかと思うと腰を引かれ、体が春さん腕の中に落ちる。 そしてそのままキスをされた。 「ん、む……ふ」 突然の事に持っていた折りたたみ傘が背後でポトンと地面に落ちる音がした。 いくら雨だからってこんな学校の近くで。車だって通ってる筈だし、生徒の姿も何人か見た。 早く離れないといけない。なのに口付けられる熱い口内に吐息が漏れる。鼓動が早く火照る頬。離れるのを許さないかのように腰に回された腕に意識が持っていかれてしまう。 「はっ…春さ…」 角度を変えたほんの一瞬に声を上げると、唇が離れ首筋にキスをされた。人に触れられることのない場所への口付けに無意識に体が震える。 「安成…俺のこと好き?」 聞こえてきた言葉に、傘の中で彼を見上げた。 見上げた先のただ怖いだけだった不良は優しい笑みを浮かべていて、愛しい…と。言葉には出さなくても伝わってくる慈しみを感じる表情。 「俺はおまえのこと好き。本当に。大好き」 「あ……」 「安成の不安ってなに?やっぱガラ悪いのがやだ?こわい?」 「そんなんじゃないよ!」 悲しそうな表情に変わるのが嫌でつい大きな声を出してしまった。一瞬、驚いたような顔をしたけど、春さんはまた表情を和らげる。 俺の好きな、優しい笑顔。 「もう俺は安成以外欲しくない。大切にしたい」 優しい笑顔に、優しい言葉。俺の大好きな「優しい」が詰まった春さん。 それなのに俺は春さんの発した何気ない一言に引っ掛かってしまうんだ。そんな自分が本当に嫌になる。 ――もう欲しくない。って、もう、ってなんだよ。 叶に相談すればきっと、そんな小さいことで女々しすぎじゃない?なんて馬鹿にされるようなこと。 でも俺には春さんの言葉が真っ直ぐに伝わって来なかった。本当は元カノが欲しい。だけど元カノは手に入らない。だから変わりのお前だけで「もう」大丈夫的なニュアンスにしか取れなかった。 「……ありがとう…春さん…」 ビビリでチキンな性格ってホント直らないもんだよな。それに加えて女々しさもプラスされて。 俺は自分が傷付くのが怖い。 元カノのことを、本当のことを聞くことが怖い。 「…ありがとう……」 俺は恥ずかしがるフリをして、春さんの肩口におでこを押し付けた。

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