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「面倒臭い」
開口一番に飛び込んできた言葉がそれだった。背もたれに体を預け、ズズズと果肉入りのピーチジュースを飲んだかと思うと、グラスを机に置きながら吐き捨てるように言われた。
「め…めんどくさいよね…やっぱ…」
「面倒臭いです。こんな時間にあんなとこで突っ立って何事かと思えば…なんですか、それ。あなたやっぱり男じゃないんじゃないですか?」
「うっ……そ、そこまで言いますか」
「言いますよ。俺の貴重なミクたん特集堪能タイムを無駄にしてまで聞く話じゃなかった」
「…アニメタイムズ買ってたよね…?」
「もちろんです。ミクたん表紙ですから。でも家に帰るまで我慢できないから本屋で立ち読みした後に買って帰るのが俺の楽しみなんです。なのに死にそうな顔して俺の目的地であるアニメコーナーの前でボーとしてるあなたに出くわすなんて…もはや災難です、災難」
「災難……」
付いていくのに精一杯な毒舌マシンガントーク。ほんとにこの子春さんと真逆のタイプだよなあ。顔はそっくりなのに。
俺は目の前で説教のようにブツブツと春さんの弟――桃哉 くんに文句を言われながら、両膝に両手を置いて項垂れた。
さて、何故こんなことになっているのかというとだ。
実は、春さんとバイバイしたあと、部屋でボーとしていたのだが、そういえば今日は猛獣使い☆ミクたんの特集が組まれた雑誌の発売日だということを思い出して家を出た。
何もしていないと余計なことを考えて心細くなってしまうのが嫌だったんだけど、何かをしていても春さんのことが頭から離れず、本屋で立ち止まってるところを桃哉くんに肩を叩かれたのだ。
桃哉くん曰く死にそうな顔をしていた俺が心配になったのか「とりあえずどっか入りますか」と近くにあったファミレスに連れて行かれた。
「どうせ兄貴とのことでしょう?知ってますよね?俺ら仲良く無いんで兄貴には話しませんから。とりあえずその死にそうな顔やめて貰って悩んでること吐き出して貰っていいですか?……早く!」
と、春さんとは違う意味で恐怖を感じこうなった経緯をぶち撒けたところである。
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