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「…まあ兄貴イケメンだから、兄貴が現れても友達周りは喜んでたみたいですけど?でもあの子はそういうのがすっごい苦痛に感じてた。よく笑う子だったのに、日に日に笑顔が無くなっていきました」
「………」
だから、壊される、なんて言ったんだろうか。
早口でスラスラと言葉を紡いでいく桃哉くんだったが、当時の様子を思い出したのかクリームを掬う手の動きがスローになった。
酷い、束縛だったのかな。
でも春さん俺には全然束縛なんてしてこない。
休日に遊ぶ相手なんてそう居ないし、学校も一緒だからっていうのもあるんだろうけど。相手が精神的に追い詰められる程の束縛とかするんだ…あの春さんが…
「でね、事件が起きたんです。あの子と兄貴の相談を受けながら一緒に帰ってるときにね、出くわしちゃったんですよ。兄貴と」
「…桃哉くんが?」
「そうそう。それで、一発ガツーンと」
とんとん、と人差し指で自分の頬を叩く。
それって…春さんが桃哉くんを殴ったってことか?
「あの子、俺と帰ること嘘付いて言ってたみたいで…まあ、かなり手加減されてましたけど。本気でやられたら歯飛んでましたよ。でも、あの子はそんなの分かんないし、多分今まで溜まってたのがアレで爆発しちゃったんでしょうね」
笑いながら桃哉くんが砕けたコーンフレークごと、アイスを口に入れた。冷たさが心地いいのか、イチゴが甘酸っぱいのかクーッと目を瞑る。
俺も異常な程に喉が渇き、目の前のアイスカフェラテに手を伸ばした。
いつの間にか氷が溶けていて、喉を通る液体はかなり薄くなっていた。
「……すごい泣いてたなあ。もう別れる、最低、大嫌いって泣き叫びながら…倒れた俺のこと抱き締めて……」
パフェを崩す手が止まり桃哉くんの視線が違うところを見ているように、ぼんやりとした表情に変わる。
――桃哉くんって…もしかして
「桃哉くん…」
俺の視線に気付いたのか、苦笑いをした。
「誤解しないでくださいね。泣き顔…不細工だったなあ、って思っただけです」
「…ひどいな」
「ひどいでしょ。俺、そういう奴なんで」
笑う桃哉くんに釣られて俺もそっと微笑む。女の子に不細工だなんて、ほんと言葉を選ばない子だ。
でも呟いた言葉の裏側に気付いた俺は桃哉くんの気持ちを考えてほんの少し胸が痛み、つい唇を噛み締めてしまった。
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