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カノンの一日 その一
僕の一日は、鬼八郎 様と一緒に迎えます。
ぱちっと目を開けると、ふわふわの赤毛にキリッとした目が視界に入って、優しい笑顔で鬼八郎様が「おはよう」って言ってくれます。
「おはようございます。鬼八郎様」
起き上がると、また僕の浴衣は気崩れてて、いつも鬼八郎様が直してくれます。
いつか着崩れせずに綺麗な状態で眠れるようになるのが、僕の目標です。
朝ごはんは鬼八郎様と鬼一 様と一緒に食べます。
炊きたてのご飯がすごく美味しくて、お料理を作ってくれる方にとても感謝しています。
箸の持ち方も初めは苦労したけど、今は全く苦にならないくらい上手に持てるようになりました。
「カノン、食べ方がすごく綺麗になったな!」
「本当ですか?うれしいですっ」
「これならどこに嫁にやっても安心……いやいやいや!カノンを嫁になんてやらーん!!」
急に鬼八郎様が大声で叫び始めたので、びっくりしました。
鬼一様は、「うるせぇ!飯ぐらい静かに食え!」と鬼八郎様を叱っていました。
鬼一様は初め怖い方だと思っていましたが、本当は思いやり溢れる方なんだってことを僕は知ってます。
「カノン、お前もぼーっとしてないで食えよ」
「は、はい……っ!」
鬼一様は最近、僕の名前を呼んでくれる……それも嬉しい。
朝食をとった後、いつもは鬼八郎様とお城の中で遊んだり、街にお出かけをしたりするんだけれど、最近は火山祭っていう鬼ヶ島のお祭りのことで大忙しみたい。
「いーやーだー!!今日こそ、カノンと過ごすんだー!!」
大忙しのはずなんだけど、鬼八郎様は僕と過ごしたいらしく、部屋から出ないつもりらしい。
「てめぇ……!今日は出店構える人達に挨拶しに行く日だろうが!ただでさえ、予定が押してるんだ。さっさと動け!!」
鬼一様の眉間の皺がどんどん濃く刻まれていく……。
このままじゃ、鬼八郎様が鬼一様に怒られちゃう。
僕はそっと、鬼八郎様の手を取った。
「鬼八郎様、僕はここでお帰りをお待ちしているので、安心して行ってきてくださいね」
「か、カノン……!その笑顔、最高にかわいい!あー……やっぱり連れていきたい……カノンを小さくして、持ち歩きたい……!!」
鬼八郎様は泣きながら、僕の手を握っている。
僕は小さくならないですよ?
むしろ、鬼八郎様くらい大きくなりたいんだけどなぁ。
「それ以上、小さくしてどうする気だ。早く行くぞ」
鬼一様がずるずると鬼八郎様を引きずっていってしまった。
鬼一様は力持ちですごいなぁ……。
鬼八郎様がいない時は鬼一様からもらった本を読んだり、たまに鬼三 くんが遊びに来てくれたりするんだけど、今日はお姉さんの夏鬼 さんの呉服店をお手伝いしてるみたいで、来られないらしい。
皆、それぞれやることが沢山あるんだなぁ……。
僕も何かお手伝いできたらいいんだけど。
ぼんやりとしていると、「カノンちゃん?いるかな?」という声が部屋の外から聞こえた。
「はい、いますよ」
すっと開かれた障子にはとても大きな体の鬼……鬼八郎様のお父様だった。
「鬼八郎 はいないな」
お父様は辺りを見渡すように、キョロキョロと部屋の確認をした。
邪魔者って誰のことだろう?
「鬼八郎様は出かけてしまいましたよ」
「ん?いや、違う違う!用があるのはカノンちゃんだよ!」
「僕ですか?」
何だろう?
「実はワシの庭に招待しようと思ってな」
「お庭??」
僕はお父様に手を引かれて、下に降りていった。
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