46 / 49

カノンの一日 その一

僕の一日は、鬼八郎(きはちろう)様と一緒に迎えます。 ぱちっと目を開けると、ふわふわの赤毛にキリッとした目が視界に入って、優しい笑顔で鬼八郎様が「おはよう」って言ってくれます。 「おはようございます。鬼八郎様」 起き上がると、また僕の浴衣は気崩れてて、いつも鬼八郎様が直してくれます。 いつか着崩れせずに綺麗な状態で眠れるようになるのが、僕の目標です。 朝ごはんは鬼八郎様と鬼一(きいち)様と一緒に食べます。 炊きたてのご飯がすごく美味しくて、お料理を作ってくれる方にとても感謝しています。 箸の持ち方も初めは苦労したけど、今は全く苦にならないくらい上手に持てるようになりました。 「カノン、食べ方がすごく綺麗になったな!」 「本当ですか?うれしいですっ」 「これならどこに嫁にやっても安心……いやいやいや!カノンを嫁になんてやらーん!!」 急に鬼八郎様が大声で叫び始めたので、びっくりしました。 鬼一様は、「うるせぇ!飯ぐらい静かに食え!」と鬼八郎様を叱っていました。 鬼一様は初め怖い方だと思っていましたが、本当は思いやり溢れる方なんだってことを僕は知ってます。 「カノン、お前もぼーっとしてないで食えよ」 「は、はい……っ!」 鬼一様は最近、僕の名前を呼んでくれる……それも嬉しい。 朝食をとった後、いつもは鬼八郎様とお城の中で遊んだり、街にお出かけをしたりするんだけれど、最近は火山祭っていう鬼ヶ島のお祭りのことで大忙しみたい。 「いーやーだー!!今日こそ、カノンと過ごすんだー!!」 大忙しのはずなんだけど、鬼八郎様は僕と過ごしたいらしく、部屋から出ないつもりらしい。 「てめぇ……!今日は出店構える人達に挨拶しに行く日だろうが!ただでさえ、予定が押してるんだ。さっさと動け!!」 鬼一様の眉間の皺がどんどん濃く刻まれていく……。 このままじゃ、鬼八郎様が鬼一様に怒られちゃう。 僕はそっと、鬼八郎様の手を取った。 「鬼八郎様、僕はここでお帰りをお待ちしているので、安心して行ってきてくださいね」 「か、カノン……!その笑顔、最高にかわいい!あー……やっぱり連れていきたい……カノンを小さくして、持ち歩きたい……!!」 鬼八郎様は泣きながら、僕の手を握っている。 僕は小さくならないですよ? むしろ、鬼八郎様くらい大きくなりたいんだけどなぁ。 「それ以上、小さくしてどうする気だ。早く行くぞ」 鬼一様がずるずると鬼八郎様を引きずっていってしまった。 鬼一様は力持ちですごいなぁ……。 鬼八郎様がいない時は鬼一様からもらった本を読んだり、たまに鬼三(きさ)くんが遊びに来てくれたりするんだけど、今日はお姉さんの夏鬼(なつき)さんの呉服店をお手伝いしてるみたいで、来られないらしい。 皆、それぞれやることが沢山あるんだなぁ……。 僕も何かお手伝いできたらいいんだけど。 ぼんやりとしていると、「カノンちゃん?いるかな?」という声が部屋の外から聞こえた。 「はい、いますよ」 すっと開かれた障子にはとても大きな体の鬼……鬼八郎様のお父様だった。 「鬼八郎(邪魔者)はいないな」 お父様は辺りを見渡すように、キョロキョロと部屋の確認をした。 邪魔者って誰のことだろう? 「鬼八郎様は出かけてしまいましたよ」 「ん?いや、違う違う!用があるのはカノンちゃんだよ!」 「僕ですか?」 何だろう? 「実はワシの庭に招待しようと思ってな」 「お庭??」 僕はお父様に手を引かれて、下に降りていった。

ともだちにシェアしよう!