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カノンの一日 その二
「わぁぁ……!!」
鬼ヶ城の外に大きなガラス張りの建物があり、お父様はその扉を開けた。
そこは綺麗な花々が咲き乱れ、その花と花の間から、ひょこっと顔を出す白い子兎が現れた。
「かわいい!兎だ!」
ボールのような丸々とした子兎が可愛くて、僕は思わず大きな声を出してしまった。
「触ってみるかい?」
「え!?いいんですか?」
「勿論」
お父様は手馴れた様子で、子兎を持ち上げると僕に渡してくれた。
慣れてない僕が抱っこしても大丈夫かな?って思ったけど、とても大人しい子で、僕の腕の中に小さく収まっている。
「ふわふわしてて、かわいい……」
なでなでしてあげると、兎さんも気持ちよさそうに目を閉じている。
「小さい子が小さい動物と戯れる……いい……!!」
パシャパシャと音がしたので、お父様の方を見ると、カメラを持っていた。
「カメラですか?」
「この前、視察に行った時にもらってな。今日はカノンちゃんと小さい動物達をたくさん撮るぞー!」
「いいんですか?」
「写真は嫌いかな?」
「そんなことないですけど……大切なカメラだから、僕なんか撮ってもらってもいいのかなって思っちゃって……」
「かわいい動物を抱くかわいいカノンちゃんを撮るために引っ張り出してきたんだ!今日はあのバカ息子もいないし、一日だけでもカノンちゃんと遊びたい!あーそーびーたーいー!!」
ブンブンと腕を振るお父様……だけど、カメラが!カメラがミシミシ言ってます!!
「カメラがミシミシと……壊れちゃいます!!」
「おっと……取り乱した。カノンちゃん、兎の他にもたくさん小動物がいるんだ。是非、小動物と戯れ……じゃなくて、遊んで行ってほしい」
こんなに可愛い動物さんたちと遊べるなんて、すごく嬉しい。
「あの、餌とかってあげてもいいんですか?」
「ちょうど餌の時間だ。決まった餌があるから、それをあげてもいいよ」
お父様が兎用の餌を用意し、お皿に用意すると、子兎はむしゃむしゃと食べてくれた。
「食べてくれましたっ!」
僕が嬉しくて、お父様の方をむくと、カメラを構えたお父様がパシャパシャパシャパシャと素早くシャッターを切っていた。
「あ、えーっと……」
あまりに素早いシャッター音にびっくりしていると、「さ、続けて!」と餌やりを促されてしまった。
そんなに僕を撮っても面白くないと思うけど……。
もりもり食べる兎の背中を撫でていると、「カノンちゃん、良かったらその子の名付け親になってくれないかい?」とお父様にお願いされた。
「まだ名前ないんですか?」
「まだ決めかねていてね……カノンちゃんによく懐いているようだし、決めてあげてほしい」
僕が名前を……。
人間界で暮らしていた時は、家に栗毛の馬がいて、「メロウ」って名前をつけたっけ。
この兎は、まっしろでほわほわして、たんぽぽの綿毛みたいだから……うーん。
「たんぽぽちゃん」
「たんぽぽ?」
「たんぽぽの綿毛みたいにふわふわだし……抱っこしてると、春の陽だまりみたいにほんわかして、あったかいんです」
僕がたんぽぽちゃんを抱き上げて、ぎゅっと抱っこをする。
すりすりしてくるところがすごく可愛くて癒される。
「くぅ……可愛すぎる……!カノンちゃん、次はあそこの小鳥たちにも餌をあげてくれ」
「はい!」
その後も色々な動物に餌をあげたり、なでなでしたりして、遊ばせてもらった。
最後にはお父様から「カノンちゃんを飼育係に任命します!」と飼育係にも任命してもらっちゃいました!
いつでも入れるように鍵まで頂きました。
ちゃんとお世話できるように頑張ろう!
ふと奥の方を見ると、ガラスケースが目に入った。
何だろう……?と思い、近づいてみるとそこには卵が置いてあった。
「これは?」
「あぁ、これは何の卵か分からないんだが、この近くに落ちていたんだ。せっかくだから、育ててみようかと思ってね」
大きさは鶏の卵と変わらないくらい。
表面は少しザラザラしてそうな感触で、見る角度を変えると、砂粒がついているのか、きらきらと細かい光が反射している。
「良かったら、触ってみるかい?」
「え!?で、でも……落としちゃったら……」
「大丈夫大丈夫」と言いながら、お父様はガラスケースを開けて、そっと卵を僕の方へ差し出した。
落としたらどうしようと思いながらも、怖々と両手で受け取ると、じんわりと温かい熱を感じた。
「温かい……」
「生きてるんだ。その卵の中で」
この中で生きてる……。
小さな命の熱を感じながら、僕は「元気に生まれてくるんだよ」と声をかけた。
妊婦さんはこんな気持ちなのかな?
人間も動物も関係なく、小さな命が生まれることはすごくすごく素晴らしいことで……愛しい。
僕のお母様もこんな気持ちだった?
お兄様が生まれる時も、僕が生まれる時も、愛しいって思ってくれたのかな?
そうだったら、とっても嬉しいな。
お兄様が僕がお母様のお腹にいた時に、お母様のお腹にキスをしたんだよって教えてくれた。
僕も堪らず、卵にキスした。
唇を離すと、ピキっと音が響いた。
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