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闇市の目玉商品

陽は傾き始め、街は提灯に火が灯り始めていた。 夕御飯の買い出しに来た客や、大声で客寄せする商人たちの声で賑わっていた。 「目玉商品ってなんだろな」 闇市へ向かう途中、鬼八郎(きはちろう)は二人に聞いた。 「人間ってことしか分からんって、さっきから言ってるだろうが」 「なぁ、どんな目玉商品か賭けようぜ!」 「面白そうっすね!」 「また馬鹿が馬鹿なことを言ってきた……」と鬼一(きいち)はため息をついた。 「馬鹿って何だよ、馬鹿って!いいよ、鬼一は賭けなくても」 「身長5メートルの大男に十銭(じっせん)」 鬼一はすかさず予想する。 「結局賭けんのかよ!……じゃあ、俺は……何でも飲み込める人間に十銭!」 「何でも飲み込める人間って、どういうことっすか?」 「ほら、曲芸であるだろ?剣とか金魚とか飲み込める奴。あれだよ」 「それはただの曲芸師だろ」と鬼一はつっこむが、「見てみてぇなぁ」と鬼八郎はマイペースに呟く。 「じゃあ、俺は……世界一体重の軽い女とかどうっすか!俺も十銭賭けるっす」 「どれもこれも買ったこところで、役に立ちそうにねぇな」と鬼一はため息をついた。 活気に溢れた通りを抜け、一本暗い通りに入る。 浮浪者が皿をおいて物乞をしていたり、屋台では何かわからない肉がぶら下がっている。 「目と耳あり(ます)」と書かれた屋台には、瓶に目玉が詰まっており、所狭しに並べられている。誰が買うのかは……謎だ。 怪しい露店商たちを抜けると、「ココヨリ先、金ノナイ者入ルベカラズ」という立て札があり、賽銭箱があった。三人は五銭をその中に放り込み、階段を下っていく。 煙管や葉巻の煙がもうもうと立ち込めており、客はボロい椅子に座って、()りを待っていた。 前にはこれまたボロい木製のお立ち台があり、競りにかけられた者はそこに立たされ、買われるのを待つのである。 お立ち台の向こうは、黒い布が張られており、何かの獣が唸る声や、しくしくと泣く声などが聞こえる。 赤い法被を着た狐の妖怪が、バンバンとハリセンを小机に叩きつける。 「紳士淑女の皆さん、お待たせしました!これより、お楽しみの競りの時間でっせえ!」 狐が大声で開催の合図をとる。 すると客はおおーっとざわめき始めた。 「さ、早速始めまひょか。エントリーナンバー1番!エリノナガラ竜!体長は3メートル、エリノナガラ竜にしてはかなりの大物でっせ!じゃあ50万円から!」 鎖に繋がれた鈍色の竜が引きずり出される。 客はどんどん手が上がり、結局300万円で競り落とされた。 「エリノナガラ竜って、どこの竜だ?」 「西の果てにしか生息していない珍しい竜で、自然繁殖でしか繁殖できない種らしい」 「さっすが、兄貴!物知りっすねー」 バンバンとハリセンを狐が叩き、「次は、アガリユリの種!縁起物でっせー。うまく育てれば億万長者間違いなしやで!これは、3万から!」とどんどん競りが進み、大金が飛び交っていった。 そして、最後の商品となった。 「さぁ、最後の商品となりました!地獄耳の皆さんは、もう目玉商品のことを聞いとるやろなぁ……そう、今回は人間!別嬪さんでっせー」 狐がそういうと、一人の人間がお立ち台に立たされた。 おぉ……!とどよめきが起きる。 鎖に繋がれ、目隠しをされているため男か女が分からないが、透き通るような白い肌、ふわふわとした金色の髪。体は細く、粗末な服を着させられているためか、余計に貧相に見える。 年齢は詳しくは分からないが、14、5歳くらいだろうか。 プルプルと小動物のように震えており、唇も青い。 「さぁ、皆はん、よぉーくご覧になりなさいな。目隠しを外せ」 人間の隣にいた屈強な鬼が、目隠しを取る。 人間は急に明るくなった視界に驚いたのか、下を向いたが、鬼が「おらっ、目を開いて皆さんにお見せしろ」と人間の顎をつかみ、無理やり客席に顔を見せられた。 その瞬間、鬼八郎はそのあまりの美しさに息を呑んだ。 「すげー……綺麗……」

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