2 / 49
闇市の目玉商品
陽は傾き始め、街は提灯に火が灯り始めていた。
夕御飯の買い出しに来た客や、大声で客寄せする商人たちの声で賑わっていた。
「目玉商品ってなんだろな」
闇市へ向かう途中、鬼八郎 は二人に聞いた。
「人間ってことしか分からんって、さっきから言ってるだろうが」
「なぁ、どんな目玉商品か賭けようぜ!」
「面白そうっすね!」
「また馬鹿が馬鹿なことを言ってきた……」と鬼一 はため息をついた。
「馬鹿って何だよ、馬鹿って!いいよ、鬼一は賭けなくても」
「身長5メートルの大男に十銭 」
鬼一はすかさず予想する。
「結局賭けんのかよ!……じゃあ、俺は……何でも飲み込める人間に十銭!」
「何でも飲み込める人間って、どういうことっすか?」
「ほら、曲芸であるだろ?剣とか金魚とか飲み込める奴。あれだよ」
「それはただの曲芸師だろ」と鬼一はつっこむが、「見てみてぇなぁ」と鬼八郎はマイペースに呟く。
「じゃあ、俺は……世界一体重の軽い女とかどうっすか!俺も十銭賭けるっす」
「どれもこれも買ったこところで、役に立ちそうにねぇな」と鬼一はため息をついた。
活気に溢れた通りを抜け、一本暗い通りに入る。
浮浪者が皿をおいて物乞をしていたり、屋台では何かわからない肉がぶら下がっている。
「目と耳あり増 」と書かれた屋台には、瓶に目玉が詰まっており、所狭しに並べられている。誰が買うのかは……謎だ。
怪しい露店商たちを抜けると、「ココヨリ先、金ノナイ者入ルベカラズ」という立て札があり、賽銭箱があった。三人は五銭をその中に放り込み、階段を下っていく。
煙管や葉巻の煙がもうもうと立ち込めており、客はボロい椅子に座って、競 りを待っていた。
前にはこれまたボロい木製のお立ち台があり、競りにかけられた者はそこに立たされ、買われるのを待つのである。
お立ち台の向こうは、黒い布が張られており、何かの獣が唸る声や、しくしくと泣く声などが聞こえる。
赤い法被を着た狐の妖怪が、バンバンとハリセンを小机に叩きつける。
「紳士淑女の皆さん、お待たせしました!これより、お楽しみの競りの時間でっせえ!」
狐が大声で開催の合図をとる。
すると客はおおーっとざわめき始めた。
「さ、早速始めまひょか。エントリーナンバー1番!エリノナガラ竜!体長は3メートル、エリノナガラ竜にしてはかなりの大物でっせ!じゃあ50万円から!」
鎖に繋がれた鈍色の竜が引きずり出される。
客はどんどん手が上がり、結局300万円で競り落とされた。
「エリノナガラ竜って、どこの竜だ?」
「西の果てにしか生息していない珍しい竜で、自然繁殖でしか繁殖できない種らしい」
「さっすが、兄貴!物知りっすねー」
バンバンとハリセンを狐が叩き、「次は、アガリユリの種!縁起物でっせー。うまく育てれば億万長者間違いなしやで!これは、3万から!」とどんどん競りが進み、大金が飛び交っていった。
そして、最後の商品となった。
「さぁ、最後の商品となりました!地獄耳の皆さんは、もう目玉商品のことを聞いとるやろなぁ……そう、今回は人間!別嬪さんでっせー」
狐がそういうと、一人の人間がお立ち台に立たされた。
おぉ……!とどよめきが起きる。
鎖に繋がれ、目隠しをされているため男か女が分からないが、透き通るような白い肌、ふわふわとした金色の髪。体は細く、粗末な服を着させられているためか、余計に貧相に見える。
年齢は詳しくは分からないが、14、5歳くらいだろうか。
プルプルと小動物のように震えており、唇も青い。
「さぁ、皆はん、よぉーくご覧になりなさいな。目隠しを外せ」
人間の隣にいた屈強な鬼が、目隠しを取る。
人間は急に明るくなった視界に驚いたのか、下を向いたが、鬼が「おらっ、目を開いて皆さんにお見せしろ」と人間の顎をつかみ、無理やり客席に顔を見せられた。
その瞬間、鬼八郎はそのあまりの美しさに息を呑んだ。
「すげー……綺麗……」
ともだちにシェアしよう!