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若様、彼を買う。二

競りが終わった後、鬼一(きいち)に「あんた、マジでなに考えてんだ」と絶対零度の表情で迫られたが、鬼八郎(きはちろう)は顔をきりっとさせ、こう言った。 「あんな綺麗な子、見たことない。欲しいと思ったんだ……」 「若、かっこいいっす……男気っすね……!!」 鬼三(きさ)はキラキラとした目で、鬼八郎を見つめていたが、鬼一は「胃が痛くなってきた」と胃をさする。 「おお~~!一億の旦那!本日はお買い上げありがとうございます~!!今回の競りで、一番の高値でっせ~~!」 両手を揉みながら、赤い法被の狐が話しかけてきた。 「一括で払いますか~?分割にします~??」 「男は黙って、一括!……と言いたいところだが、今持ち合わせが無くてな……」 「額が額ですからね~。分割手数料かかりますけど、分割がおすすめでっせ~」 「じゃあ、分割、でぇぇぇっっっ!!!」 鬼八郎が返事をしようとしたら、鬼一が下から拳を突き上げた。 鬼八郎は綺麗な放物線を描き、後頭部から着地した。 「分割手数料とはいくらだ」 鬼一が聞くと、狐はどこから出したのかそろばんを出し、パチパチと弾き出した。 「………暴利だ。まけろ」 「額が額ですから♪」 「ちっ……守銭奴め。若、すみませんが手数料はまけられなかったので、買うなら一括で払ってください」 「おいこら、殴ったことに対しての謝罪はなしか」 鬼一の態度に腹を立たせながらも、家にある自分のお金を勘定してみた。 鬼八郎の家は鬼の首領なだけあって、かなり裕福だ。 首領であり、父親である鬼三衛門(きざえもん)は鬼八郎に毎月十分な金を与えてくれている。 ただ、鬼八郎自体は街に出て遊ぶことはあっても金をあまり使わない故に、たくさん貯まっていた。 「おい、鬼三。お前、ひとっ走りして、俺の部屋の『おとん様』たちを全部持ってこい!」 「ひぃぃ!あの『おとん様』たちをっすか……!それほどまでに本気なんですね……!若の男気に俺、惚れ直したっす!!!!」 鬼三は鬼八郎に深くお辞儀をすると、風のように走っていった。 ――30分後 「若ーー!!持ってきたっすよーー!」 鬼三は風呂敷に包んだものを、地面に並べる。 それは『お豚様(とんさま)』と鬼八郎が呼んでいる豚の貯金箱だった。 小さな頃から貯めたお金が詰まっている。 「お豚様……今まで、俺の金を預かってくれて、ありがとう……俺は今から大きな買い物をする。お前たちを割ったら、きっと俺は一文無しになっちまうが、後悔はしねぇ」 「うっ……うぅ……切ないっすぅぅ……」 「泣く理由がわからねぇ」 大きなの貯金箱で、10個あった。 お豚様との今生の別れを言いながら、鬼三が持ってきた木槌で思いっきり叩き割った。 一気に10個割ると、それをかき集め、狐に渡した。 「これで足りるはずなんだ!勘定してくれねぇか」 「へぇへぇ。改めさせてもらいますー」 狐は、ひぃふぅみぃ……とお金を数え、暫くして、狐はこちらを見て「んんん~」と首をかしげ、「足りまへんなぁ……」と言い出した。 「え!?マジで!?おい、鬼三!てめぇ、どっかで落としてきてんじゃねぇだろうな」 鬼八郎は鬼三の胸ぐらをつかんで、締め上げた。 「そ、そんなことしてないっす~!俺、ちゃんと10個持ってきたっす!」 「信じて下さいっす~!!」と泣きながらわめく鬼三の襟元を離した。 「若、諦めましょう」 「嫌だ!!」 鬼八郎は頭の中でぐるぐると考えると、一つ思い当たる人物がいた。 「おい、あとどんだけ足らねぇんだ?」 狐に聞くと、そろばんを弾いて、「これだけ」と指差した。 「えぇ~と……一、十、百……」と鬼八郎と鬼三が桁を数えていると横から、鬼一が「2500万」と言った。 「2500万!?一億あると思ったのになぁ~」 「若が数え間違えたんだろ。さ、もう諦めて帰りましょう」 「いや、まだ手はある!!おい、あんたまだ猶予はあるか!?」 鬼八郎は狐に聞く。 「まぁ、夜明けまでに払って下さったらええけどね」 「よし、必ず夜明けまでに金を払いにいく!待っててくれ!!」 そう言って、競りの会場を飛び出した。 鬼一は鬼三に闇市で待っておくように命令し、「若!どこに行くんだよ!!」と後ろから追いかけながら聞く。 「お花の所だよ!」 「はぁ!?よりにもよって、そんなところで……!」 鬼一は呆れた。 けれど、一度言ったら聞かない鬼八郎のことだから、きっと止めたところで聞かない。 ならば、せめて危ないことだけはさせないようにと鬼一は無言でついていくのだった。

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