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君のことが知りたくて

「まずは、名前からだな。俺は鬼八郎(きはちろう)で、こっちの愛想が悪いのが鬼一(きいち)」 「鬼八郎様と鬼一様」と名前を呼ばれる。 鬼八郎は自分の名前を呼ばれ、少し気恥ずかしくなった。 「僕は、カノンです」 「カノン……良い名前だなぁ」 褒められたのが嬉しかったのか、ふわりとカノンは笑った。 笑顔かわいいなと鬼八郎はまたドキドキしながら話を進める。 「カノンはどこから来たの?」 「僕は……人間界のロメルダという国にいました……けど、戦争で負けて、僕は敗戦国の民となり売られてしまいました」 カノンはその時の事を思い出しているのだろうか、ぎゅっと服の端をちぎってしまいそうなほど、握りしめていた。 「……っ、帰りたい……」 二色の瞳からは大粒の涙が溢れ、こぼれ落ちた。 鬼八郎は胸が痛んだ。 (国を滅ぼされて、魔界に売られて、鬼に買われて……。そりゃあ、帰りてぇよなぁ) 帰してあげるべきか。 でも、人間界など行ったこともなければ、みたこともない。 「若、お前まさか、こいつを帰すつもりじゃねぇだろうな」 今まで黙っていた鬼一がぎろりと俺を睨んだ。 何でそんなに怖い顔をしてるのか、鬼八郎には分からなかった。 「こいつにどれだけの金使ったか分かってんのか?ちゃんとその分働かせねぇと割に合わねぇだろ」 「闇市の時から何なんだよ、鬼一!やけに突っかかってくるじゃねぇか。てめぇ、俺に喧嘩売ってんのかぁ?!あぁ!?」 鬼一に向かって、鬼八郎は凄むと、鬼一も眉間にシワを寄せて睨み付けた。 「てめぇの金で買ったもんにケチはつけたくねぇが、人間一匹飼うために、一億なんて大金を、しかもカマ野郎に借金してまで手に入れるなんざ、ちゃんちゃらおかしいんだよ!」 「俺の金で買ったもんだ!てめぇに文句言われる筋合いねぇよ!!」 二人の鬼気迫る様子に、カノンはただただ布団の上で小さく震えて見守るしかなかった。 そんな一触即発の空気をよそに、「若ー!兄貴ー!買ってきたっすよー♪」という能天気な声が聞こえてきた。 鬼三(きさ)がお菓子を沢山詰めた袋を持って帰ってきたのだ。 「え!?何で喧嘩してるんすか!?ダメっすよー!喧嘩はー!!」 鬼三が間に入ると、二人の鬼はギロリと鬼三を睨み付け、「うるせぇんだよ!!」と二人の拳が鬼三の腹にめり込んだ。 鬼三は「げほぉ……っ!!」という汚い叫びをあげながら、後ろに転がり、障子を突き破り、廊下の壁に叩きつけられた。 鬼八郎はふぅーふぅーと興奮しながら呼吸し、カノンを見ると、兎のようにぷるぷると震えていた。 しまった……!と思ったときには遅かった。 カノンは脱兎のごとく、部屋を飛び出し、逃げてしまった。 「あいつ、逃げやがったな……っ!」と鬼一が追いかけようとすると、鬼八郎は鬼一の前に立ちはだかった。 「俺が見つける!てめぇはそこにいろ!これは、命令だ!鬼一!!」 鬼一は、そのまま押し黙り、どすんと床に座った。 「行かない」という意思表示だ。 鬼八郎は、カノンを急いで探しに部屋を飛び出した。 ここは鬼ヶ城。 魔界と人間界の行き来が無くなった故、人間を食べるということはなくなったが、それでもここにいる古株達は人間の味を知っている者が多い。 そんな所にカノンが迷い混んだら……。 「早く見つけねぇと……!」

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