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朝ごはん

鬼八郎(きはちろう)の部屋に、朝ごはんが用意された。 漆塗りの御膳の上には、湯気のたったご飯と味噌汁、小鉢にはほうれん草のお浸し、長方形の浅い皿には甘い卵焼きがあった。 鬼一(きいち)も下座で同じものを食べる。 「いただきまーす!!」 鬼八郎は元気よくご飯をかき込みながら食べ始めた。 カノンは鬼八郎の真似をして、「……いただきます」と小さな声で呟き、箸を見つめていた。 「ん?どうした?カノン。食べないのか?」 「あの……鬼八郎様、これはどうやって使うのですか?」 「カノン、箸使ったことないのか?!」 鬼八郎が聞くと、カノンはこくりと頷いた。 鬼八郎は「こうやって持つんだよ」と今持っている箸を見せた。 鬼八郎は昔、変な箸の持ち方をしていたが、鬼一に「みっともない」と言われ、矯正したのだ。(というより、させられたが正しいのだが……) だから、鬼八郎は箸の持ち方には自信があったのだ。 カノンは自分の持ち方と鬼八郎の持ち方を見比べながら、何とか箸を持てるようになった。 「箸の上だけを動かして、掴む」 鬼八郎は箸で卵焼きを掴んで見せた。 カノンも真似をして、掴もうとするが、なかなか持ち上げられない。 「あ、掴めた!……っわ、あぁ!」 掴めたと思ったら、箸が×印のように交差して、卵焼きを落としてしまった。 「あ……ご、ごめんなさい……」 「気にするなよ!俺の卵焼きあげるから!」 鬼八郎は箸で卵焼きを切って、カノンの口許に運んだ。 カノンはおずおずと口を開き、パクリと食べた。 「美味しい……です」 口をもぐもぐ動かしながら、微笑む姿に鬼八郎も思わず顔が緩む。 「カノンはいつも何でご飯食べてたんだ?」 「えと、スプーンとフォークとナイフです」 また鬼八郎の分からない単語が出てきた。 一体、どんなものなのか、さっぱり検討がつかない。 「慣れるまで、俺がこうやって食べさせてやるよ!」 鬼八郎は一旦考えるのをやめて、明るくカノンにいったが、「若」と鬼一が話しかけた。 「あんまり甘やかすのもどうかと思うが」 「だって、箸が使えなきゃ、飯も食えねぇじゃん!」 「練習させればいいでしょ」 「練習って……」 二人の会話の雲行きが何だか悪くなっているのを察したカノンは、慌てて「あの!」と二人に話しかけた。 「僕、練習します!!箸がちゃんと使えるように、たくさん練習します。だから……鬼一様、この箸を僕に頂けないでしょうか……」 鬼一はじっとカノンを睨んでいたが、「箸ならたくさんある。勝手に持ってけ」と言った。 その言葉を聞いて、カノンはほっとした。 鬼一は一旦部屋からでて、暫くすると(さじ)を持ってやってきた。 「暫くはそれを使え、スプーンと形は多少違うかもしれないが、わがまま言うなよ」 カノンは匙を受けとると、にこりと笑って「ありがとうございます」と頭を下げた。 「すぷぅーんって、匙のことだったのか……」 「こいつのいた世界とここは文化が違う。暫くここにいるなら、早いとこ、ここの文化に慣れてもらわなきゃ俺らもこいつも困るだろ……」 鬼一は腕組みしながら、ため息をついた。 鬼八郎はニヤニヤした。 「やっぱり、鬼一はなんだかんだ言って面倒見いいよな!」 「ふん」と鬼一は鼻をならした。 「それより、若。今夜、親方が帰ってくるぞ」 「え!?今日だっけ??」 親方とは、鬼八郎の父親であり、鬼ヶ島の首領である。 身長2メートルを越えた大男で、力も強く、皆に恐れられている。 「こいつのことも話しておいた方がいいかと」 「……んー、確かに……」 鬼八郎と鬼一は、匙でご飯を一生懸命食べているカノンをちらりと見た。

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