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身支度
〈鬼八郎目線〉
親父が帰ってくる。
カノンを見せるとなると、ちゃんとした格好をさせなきゃいけないし、風呂にも入れなきゃいけない。
とりあえず鬼一に風呂の準備だけさせる。
「カノン、今夜俺の親父が帰ってくるんだ」
「お父様、ですか?」
カノンは俺の部屋の畳の上にちょこんと座っている。
着物も俺の着物を着ているが、大きすぎて肩がずれてくる。
少し動くだけで、はだけてしまうため、俺はかなり目のやり場に困るのだ。
「……やっぱり、その着物、大きすぎるな」
「着こなせなくて、ごめんなさい……」
カノンはしゅんと涙目になってしょげてしまった。
あぁ!俺、もうちょっと考えて発言しろよな!!
「いやいや、カノンがしょげることないんだぞ。そうだ、もうちょっと前をきつめに合わせて、帯をぐっと締めれば……」
俺はカノンの帯を締めながら着物を直していると、鬼一が「若、風呂の用意ができたぞ」と入ってきた。
そして、この光景を見て何を思ったのか、
「若、そういうことをするのは、日が暮れてからにしてくれ」
と言って、障子をピシャリと閉めた。
え?
ええええええ!?
違う違う違う!!!
確かにパッと見、涙目になったカノンを襲う構図に見えなくもないが、俺は、親切で着物を直してただけで!!
「鬼八郎様、大丈夫ですか??また、お顔が赤いですよ??」
百面相している俺を心配そうにカノンが見つめている。
この世に俺の味方はカノンだけだな……。
俺は何とか立ち直ると、カノンを抱えて風呂場に向かった。
「鬼八郎様!あの、僕歩けます……!」
「この方が早いだろ」
「何だか、小さな子供みたいで、は、恥ずかしいです……っ」
カノンが顔を赤くして、困っていた。
そんな可愛い顔してると、本当に襲うぞ。
「いいからいいから!それに、他の鬼に見られるとちょっと困るんだ」
カノンの貞操的に。
「!わ、分かりました……。顔、隠してますっ」
カノンは小さな手で自分の顔を隠した。
何なんだ、その可愛い隠し方。
『湯』と書かれた紺色の暖簾をぴらりと開ける。
よし、誰もいないな。
「カノン、俺が誰も入ってこないように見張ってるから、先に入ってこいよ」
「え?一緒に入らないのですか?」
カノンはこてんと首を傾げた。
俺の頭の中で、『一緒に入らないのですか?』が渦を巻いては、何度も繰り返し繰り返し響いている。
っていうか、一緒に入っていいの?
「いやいやいやいや!!カノンの裸を見るなんて、犯罪だから!」
「え、男同士で入るのは犯罪なのですか?!」
あ、そうじゃん。カノン、男じゃん。
可愛すぎて、同性に見れなかったわ。
「で、でも、一人でゆっくり入った方が良くないか!?」
「………僕、怖い……昨日、お風呂って言われて行ったのが……釜だったから」
厨房係の鬼に釜茹でにされそうになったんだった。
くっそ、あのチビ鬼、カノンに変なトラウマ植え付けやがって……。
「……お願いします。一緒に入って、なんて……鬼八郎様にしか頼めない……」
カノンはもじもじと顔を赤くしながら、俺に頼んだ。
『おいおい、こんな可愛い子の願いを無下になんでできないよなぁ?それに、体を洗う名目であんなことや、こんなことができるかもよ~?』
出てきたな、悪い俺!またの名を黒八 !!……悪い俺って、こんな下衆な考えの持ち主だったんだな。
少し衝撃を受けていると、もう一つの声が頭に響く。
『ダメだ!入ったら最後、たがが外れるに決まってる。だって、お前は単細胞バカなんだから!!』
確かにそれは言えているが、単細胞バカって、それもうただの悪口じゃね?善い俺!またの名を白八 !!
「…………ダメですか?」
俺、カノンの涙目に弱い。
ついでにカノンの上目遣いにも弱い。
ついでのついでに言うと、カノンに弱い。
今回は黒八に軍配が上がった。
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