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現代パロディー:節分編
☆「鬼若様は溺愛中」の現代パロディー。
今日、二月三日が節分の日だということで、乗っかってみました!
一応、鬼なので……。
☆鬼八郎 高校2年生、鬼一 大学一年生、鬼三 中学2年生で、三兄弟設定。名字は鬼頭 です。
カノンは鬼頭家にホームステイ中の高校2年生の設定です。
〈鬼八郎目線〉
今日は二月三日。節分の日。
我が家では毎年恒例の豆まき大会の日だ。
もちろん、我が家にホームステイしているカノンも参加だ。
キラキラの蜂蜜のような髪、透き通る白い肌、くりっとした瞳は右が青で左が紫のオッドアイ。女の子顔負けのドールフェイスである。
そんな可愛い可愛いカノンは、そんな容姿を鼻にもかけず、心優しい天使のような性格だ。
リビングに行くと、カノンは何やらスマホで一生懸命、字を打っている。
「カーノンっ!何してるんだ?」
「あ、鬼八郎くん。お兄ちゃんからのメッセージを返してたんだ」
吹き出しで出てくるメッセージアプリだ。
向こうの友達からも来るのだろう。英語で書かれた名前の横には2件3件と数字が出ている。
しかし、一番上の人物の名前の横には126件という数字が出ている。
グループでメッセージを交換しても、なかなかそんな数字にはならない。
「カノンの兄ちゃんって……毎日、こんなにメッセージ送ってくんの……?」
「うん……お兄ちゃんは心配性でたくさんメッセージを送ってくれるんだ。でも僕、文字打つの遅いから、返信が間に合わなくて……」
いやいや、カノン。
めちゃくちゃ文字が打つの早い奴でも、この量のメッセージ全部返すの無理。
「でも、いつもは300件くらい来るんだよ?今日はお仕事忙しかったのかなぁ?」
いやいや、カノン。
126件でも異常だからね?
っていうか、兄ちゃん働けよ!!
「たっだいまー!」
「ただいま」
俺の兄貴である鬼一と、弟の鬼三が帰って来たようだ。
両手には買い物をしてきたのか、スーパーの袋を抱えている。
「あ、鬼一さん、鬼三くん。お帰りなさい!わぁ、その袋何ですか?」
「今日は節分だからな、豆と恵方巻の具を買ってきた」
鬼一はダイニングの机にドンと袋を置いた。
「セツブン?エホウマキ??」
カノンの頭にははてなマークがたくさん飛んでいるようだった。
「節分っていうのは、主に日本の暦の中で立春の前日のことを指す。その日は厄を払う……悪いものを払うために豆を撒く日なんだ」
鬼一は、買ってきたものを出しながら説明した。
相変わらず物知りだな。
俺だったら、すぐ言葉に詰まる。
「鬼は外!福は内!って言いながら、撒くんすよ!」
「そんな行事があるんですね!どうして、豆を撒くのですか?」
鬼三と俺は顔を見合わせて、首を傾げた。
そう言われてみれば、どうしてだ?
「豆は、『魔を滅する』つまり『魔滅 』に繋がっていて、悪いものを払う神聖な物だと言われてきたんだ。鬼を払うために撒くんだ。
ちなみに恵方巻は、節分の日に食べる巻き寿司のことで、福、つまり良いことを巻き込むという意味がある。鬼の金棒に見立てて、退治するって意味もあるらしい」
「オニって?」
「鬼は、そっちの言葉で言うとデーモンになるんだったかな。とにかく悪いものだ。風邪とか悪い病気や悪い出来事をもたらす者を指している」
カノンと俺と鬼三は、「へぇー」と納得しながら聞いた。
「すげー!そういう意味だったんだ!」
「知らなかったっす……!明日、友達に教えるっす!」
「すごく勉強になりました!今度、向こうの学校で『日本の文化』についてのレポート提出があるので、節分について書いてみますっ!」
三人でわいわい話していると、鬼一はため息をつきながら、「カノンはともかく、お前ら二人は日本人だろ。それくらい勉強しとけ」と呆れていた。
鬼一は、手際よく夕御飯の用意を始めた。
「カノン、お前レポート書くなら、恵方巻一緒に作るか?」
「え!?いいんですか?」
「カノンが作るなら、俺も作る!」
びしっと俺は手を挙げて答えた。
「俺も作りたいっすー!」
続けて、鬼三も手をあげた。
「いつもは嫌々手伝うくせに……」と言いながら、鬼一は順番に役割を振っていく。
鬼三とカノンは酢飯係(鬼三が力の限りご飯とお酢を混ぜ合わせ、カノンが優しく団扇で酢飯に風を送る係)で、俺は恵方巻の具を切る係。
ちなみに具材はスーパーで買ってきたものと、鬼一が昨日の内に作ったもの、両方入れる。
鬼一はすまし汁やその他のおかず係だ。
「……っ痛!」
俺は、具を切っていると、誤って自分の指を切ってしまった。
「ったく、不器用な奴だな」
鬼一は、舌打ちをしながら、絆創膏を出す。
カノンも団扇係を止めて、俺のところにやってくる。
「鬼八郎くん、大丈夫?」
「これくらい、平気平気!唾つけとけば治るよ!」
カノンはそっと俺の指を撫でて、何やら英語で呟いた。
……残念ながら、英語が2の俺には聞き取れなかった。
「今、なんて言ったんだ?」
「Pain,pain,away……日本語で言うと、痛いの痛いの飛んでけって意味だよ」
にこりと天使の笑顔で答えてくれた。
「へへ……もう飛んでった」
思わず鼻の下が伸びる。
「お前の指も全部飛ばしてやろうか?」
それを見ていた鬼一は冷ややかな声で恐ろしいことを言ってきた。
「死ぬわ!」
「その時は、痛いの痛いの飛んでけって言ってやるよ」
「指が全部飛んでっとるわ!」
そんなやり取りをカノンはくすくすと笑いながら見ていた。
ある程度出来上がり、最後に海苔と酢飯で具材を巻く。
それは、カノンが巻いてくれた。
カノンがレポートに載せる写真を撮りたいと言ったので、俺はスマホで写真を撮りまくった。
……後で見返したら、ほぼ全部、カノンにピントが合ってしまっているが、これは仕方がないことだな。
恵方巻が完成し、今年の恵方である南南東を向く。
「エホウって方角のことだったのですね」
「今年の恵方は南南東っす!」
「カノン、恵方巻食べるときは、無言で食べなきゃいけないんだぞ。じゃなきゃ、願い事叶わないからな」
「え!?そうなの??全部食べきれるかなぁ……?」
カノンは不安そうな顔をしていたが、恵方巻を一生懸命くわえて、なんとか完食していた。
恵方巻をくわえてるカノンの表情がエロいって思ったのは、俺とお前だけの秘密だ。
そして、毎年恒例の豆まき大会だ!
毎年、父さんが鬼役をしてたけど、今は母さんと一緒に海外で単身赴任中だから、俺達三兄弟の中から選ばなければならない。
ここは公平に、
「じゃんけん、ぽんっ!」
俺、チョキ。
鬼一、グー。
鬼三、グー。
「俺かよーーっ!!」
俺は膝から崩れ落ちた。
「鬼八郎兄 !面を被ってほしいっす!」
おそらく豆を買った時に貰ったであろう、鬼のイラストが書かれた厚紙のお面。
輪ゴムがあり、耳に引っかける。地味に痛い。
「まじで家から追い出す勢いで、豆撒いてやるから、覚悟しろよ」
鬼一は、鬼のような形相で睨んでくる。
お前の方が鬼だわ!!
「カノンからやれよ」
初めての節分だからか、鬼一はカノンに豆の入った升を渡す。
「掛け声は『鬼は外』っすよ!」
「カノン、思いっきり、豆ぶつけていいからな!」
初めての節分なのだ。
カノンには心の底から楽しんでほしい。
俺の鬼っぷりを発揮してやる!!
じっと俺を見つめていたカノンは、ふわりと笑いながら、
「僕、鬼八郎くんが鬼だったら、風邪を引いても平気だよ?」
と優しく言った。
天使!!
俺の想像を上回った天使!!!!
俺は顔を覆って、泣いた。
厚紙の面はふにゃふにゃになったが、そんなことは知らんっ!!
膝から崩れ落ちた俺に、鬼一と鬼三は思いっきり豆をぶつけてきたけど、もう、そんなこと構わないっ!!
結局カノンは、俺には豆をぶつけず、「福は内!」と家の中に豆を撒いた。
「鬼さんにも福が来ますように」
と俺の方を向いて、照れながら言ってくれた。
俺にとっての福は、カノンだな。
そう実感した、節分だった。
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