20 / 49

着せ替え人形

カノンはご飯を食べ終わり、部屋で待っているとガヤガヤと話ながら誰かが廊下を歩いてくる。 「全く……ここは城のくせに、どうして電気昇降機付けないのよ!?ここまで上がってくんのに、どんだけ時間と体力使わせるわけぇ!?」 女性の声だ。 なにやらすごく怒っているみたいだが……。 「どこの部屋?ここ?もう!相変わらず似たような部屋ばっかりね!障子紙を変えるとか、工夫しなさいよね?全くもう!」 すっと障子が横に動いた。 そこには見事な金髪の綺麗な女性が立っていた。 「あら!?この子!?すっっっごく、可愛い子じゃない!鬼八郎(きはちろう)やるわね!!」 「夏鬼(なつき)、さっさと仕事しろ」と鬼一(きいち)は疲れたような顔をしてる。 「分かってるわよぉ!」 夏鬼と呼ばれた女性は、持ってきた大きくて、大量の鞄を畳の上に置いていく。 「あ!姉ちゃん!?」 痺れが治り、楽な姿勢で座っていた鬼三は驚いて叫んだ。 「鬼三(きさ)!相変わらず、なーにも考えてなさそうな顔ね!」 夏鬼は笑顔で辛辣なことを言う。 鬼三はムキーっと怒りながら、「ちゃんと考えてるっす!」と言い返した。 「じゃあ、何について考えてるのよ?」 「…………今日の夕飯のこと」 「それを何にも考えてないって言ってんの!」 夏鬼は笑いながら、弟を馬鹿にしていると、 「夏鬼、早く仕事しろ!時間ねぇんだよ!」 と鬼一の激が飛んだ。 カノンはあまりの勢いに全く言葉が出なかった。 「もぅ!分かったわよ!!」 夏鬼は鞄を開けると、艶やかな紅色の着物や深い青、ウグイスのような緑、明るい黄色など、様々な色の着物を出した。 「わぁ……綺麗な色」 カノンは思わず、驚きの声をあげた。 同じような色でも、描かれた模様や絵によって印象が違う。 「でっしょー!?私の呉服は、超人気なんだから!えーっとカノンだっけ?カノンは色が白いから何でも合うけど……やっぱり淡い色の方がいいかな~?」 夏鬼は様々な着物をカノンの肩に掛けさせ、全体を見る。 「目の色と合わせるのも良さそう!カノンの目は本当に綺麗ね!」 夏鬼はふふっと笑いながら、水色と紫の二着を選んで、更に吟味を重ねる。 カノンは着せ替え人形のようにたくさんの着物を着た。 二時間後、何とか着物が決まった。 たくさん着物を着たせいで、カノンは少し疲れてしまったが、夏鬼は相変わらず元気だ。 「完璧っ!」 薄い水色に淡い桃色や紫で花や蝶々が描かれており、帯は薄い桃色で、紫色の帯留めを付けている。 髪には白い菊を模した髪飾りをつけてもらった。 「カノンっ!すっごく似合ってる!」 「で、でも……なんだか可愛すぎるような……」 カノンは顔を赤くして、少しうつむいた。 一応、男の子なんだけど……と思ったからだ。 「鬼八郎に、『綺麗にしてやってくれ』って頼まれたの!」 「鬼八郎様に……?」 夏鬼はうんうんと頷く。 カノンは鬼八郎に言われたのであれば、仕方がないと思った。 着物まで与えてくれるのだ。ワガママを言ってはいけないし、何よりお世話になっている鬼八郎に喜んでほしかった。 「さ、次はお化粧しましょうね」 「え、お化粧もするんですか??」 「着物は柄が派手だから、顔も負けないように少しでもお化粧しとかないとね!……でも、今回は着物も淡い色だし、化粧も薄目でいくわ」 今度は大きな箱を取り出して、お粉や紅、頬紅などを出した。 「カノン……遅いなぁ……」 鬼八郎は自分の部屋で落ち着かないように、行ったり来たりしている。 「若、落ち着け」 鬼一は本を読みながら、鬼八郎をたしなめる。 そうしていると、障子が開き、夏鬼が現れた。 「終わったよん♪」 「おおー!カノンは!?」 鬼八郎はやや興奮しながら、いや、かなり興奮しながらカノンを待った。 「カノン」と夏鬼は自分の後ろに隠れていたカノンを前に出した。 薄い水色の着物を見にまとい、少し化粧をして、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、うつ向いているカノンが出てきた。 「ど、どうでしょうか……?」 カノンはちらりと鬼八郎を見ると、鬼八郎も負けず劣らず真っ赤な顔をしている。 何か言おうとしているのか、口をパクパクさせながら。 「………っ!…………!!」 「若、声出てねぇぞ」 鬼一は呆れながら、鬼八郎の肩をパンっと叩く。 それに、はっとした鬼八郎は、「カノン……すごく綺麗だ………っ!」とやっと言葉を発した。 「良かった……」 カノンはふわりと笑って、安心したのだった。

ともだちにシェアしよう!