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着せ替え人形
カノンはご飯を食べ終わり、部屋で待っているとガヤガヤと話ながら誰かが廊下を歩いてくる。
「全く……ここは城のくせに、どうして電気昇降機付けないのよ!?ここまで上がってくんのに、どんだけ時間と体力使わせるわけぇ!?」
女性の声だ。
なにやらすごく怒っているみたいだが……。
「どこの部屋?ここ?もう!相変わらず似たような部屋ばっかりね!障子紙を変えるとか、工夫しなさいよね?全くもう!」
すっと障子が横に動いた。
そこには見事な金髪の綺麗な女性が立っていた。
「あら!?この子!?すっっっごく、可愛い子じゃない!鬼八郎 やるわね!!」
「夏鬼 、さっさと仕事しろ」と鬼一 は疲れたような顔をしてる。
「分かってるわよぉ!」
夏鬼と呼ばれた女性は、持ってきた大きくて、大量の鞄を畳の上に置いていく。
「あ!姉ちゃん!?」
痺れが治り、楽な姿勢で座っていた鬼三は驚いて叫んだ。
「鬼三 !相変わらず、なーにも考えてなさそうな顔ね!」
夏鬼は笑顔で辛辣なことを言う。
鬼三はムキーっと怒りながら、「ちゃんと考えてるっす!」と言い返した。
「じゃあ、何について考えてるのよ?」
「…………今日の夕飯のこと」
「それを何にも考えてないって言ってんの!」
夏鬼は笑いながら、弟を馬鹿にしていると、
「夏鬼、早く仕事しろ!時間ねぇんだよ!」
と鬼一の激が飛んだ。
カノンはあまりの勢いに全く言葉が出なかった。
「もぅ!分かったわよ!!」
夏鬼は鞄を開けると、艶やかな紅色の着物や深い青、ウグイスのような緑、明るい黄色など、様々な色の着物を出した。
「わぁ……綺麗な色」
カノンは思わず、驚きの声をあげた。
同じような色でも、描かれた模様や絵によって印象が違う。
「でっしょー!?私の呉服は、超人気なんだから!えーっとカノンだっけ?カノンは色が白いから何でも合うけど……やっぱり淡い色の方がいいかな~?」
夏鬼は様々な着物をカノンの肩に掛けさせ、全体を見る。
「目の色と合わせるのも良さそう!カノンの目は本当に綺麗ね!」
夏鬼はふふっと笑いながら、水色と紫の二着を選んで、更に吟味を重ねる。
カノンは着せ替え人形のようにたくさんの着物を着た。
二時間後、何とか着物が決まった。
たくさん着物を着たせいで、カノンは少し疲れてしまったが、夏鬼は相変わらず元気だ。
「完璧っ!」
薄い水色に淡い桃色や紫で花や蝶々が描かれており、帯は薄い桃色で、紫色の帯留めを付けている。
髪には白い菊を模した髪飾りをつけてもらった。
「カノンっ!すっごく似合ってる!」
「で、でも……なんだか可愛すぎるような……」
カノンは顔を赤くして、少しうつむいた。
一応、男の子なんだけど……と思ったからだ。
「鬼八郎に、『綺麗にしてやってくれ』って頼まれたの!」
「鬼八郎様に……?」
夏鬼はうんうんと頷く。
カノンは鬼八郎に言われたのであれば、仕方がないと思った。
着物まで与えてくれるのだ。ワガママを言ってはいけないし、何よりお世話になっている鬼八郎に喜んでほしかった。
「さ、次はお化粧しましょうね」
「え、お化粧もするんですか??」
「着物は柄が派手だから、顔も負けないように少しでもお化粧しとかないとね!……でも、今回は着物も淡い色だし、化粧も薄目でいくわ」
今度は大きな箱を取り出して、お粉や紅、頬紅などを出した。
「カノン……遅いなぁ……」
鬼八郎は自分の部屋で落ち着かないように、行ったり来たりしている。
「若、落ち着け」
鬼一は本を読みながら、鬼八郎をたしなめる。
そうしていると、障子が開き、夏鬼が現れた。
「終わったよん♪」
「おおー!カノンは!?」
鬼八郎はやや興奮しながら、いや、かなり興奮しながらカノンを待った。
「カノン」と夏鬼は自分の後ろに隠れていたカノンを前に出した。
薄い水色の着物を見にまとい、少し化粧をして、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、うつ向いているカノンが出てきた。
「ど、どうでしょうか……?」
カノンはちらりと鬼八郎を見ると、鬼八郎も負けず劣らず真っ赤な顔をしている。
何か言おうとしているのか、口をパクパクさせながら。
「………っ!…………!!」
「若、声出てねぇぞ」
鬼一は呆れながら、鬼八郎の肩をパンっと叩く。
それに、はっとした鬼八郎は、「カノン……すごく綺麗だ………っ!」とやっと言葉を発した。
「良かった……」
カノンはふわりと笑って、安心したのだった。
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