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鬼ヶ島の首領
鬼八郎の父・鬼三衛門 は、鬼ヶ島の首領である。
すごく簡単に言うと、鬼の一族をまとめるリーダー的存在だ。
その首領が他の島へ視察に行き、留守にしていたが、夕方に帰ってくるのだった。
島の港では、首領を出迎える鬼が絶えず集まっていた。
大きな船が水平線から現れ、港に着いた。
港に大きな階段が運ばれ、船から一人の大男が現れた。
赤い燃えるような髪。
頬には大きな傷跡が残っている。
大きな体。
「やっと帰ってこれたな」
鬼三衛門はふぅ……とため息をつきながら、船をおり、遠くにそびえる朱色の摩天楼を見つめた。
その頃、鬼ヶ城では、首領を迎えるため、たくさんの料理が用意され、たくさんの客が出入りしていた。
カノンはその様子を上の鬼八郎 の部屋から見下ろしていた。
「すごい。お祭りみたいですね!」
「今回は他の島に長めに視察に行ってたからな。まぁ、短期間の視察でもいつも他の島から帰ってくるとお祭り騒ぎさ」
鬼八郎はカノンの肩を抱きながら、そう言った。
ちょうど夕陽が沈む頃で、鬼八郎は夕陽に照らされ、赤い髪が余計に燃えているようだ。
カノンはその姿を見上げる。
首領に会うからか、いつもよりおしゃれをしているようだ。
黒い着物に牡丹が描かれた着物を着ており、いつもよりきりっとした表情をしている。
(かっこいいな……)
カノンはそんな鬼八郎の姿に胸がときめいていた。
(奴隷の僕が鬼八郎様に対してドキドキするのって……やっぱりおかしいよね……)
その視線に気づいたのか、鬼八郎はカノンの方を見る。
「どうした?カノン」
「いえ、何にも……っ」
カノンはぱっと目線を鬼八郎から外す。
(何でだろう……鬼八郎様を見ているとドキドキするな……)
カノンはまだ、この感情が何か知らない。
しばらくして、摩天楼の中程にある宴会場の準備が整ったらしい。
鬼八郎は、カノンを抱っこして連れていこうとしたが、カノンが断固としてそれを許さなかった。
「階段、急だし……迷うとダメだろ?」
「抱っこしてもらうなんてダメですっ!歩きますっ!」
カノンは唇を一文字に結び、首をふるふると横に振った。
「えー……」と鬼八郎は困ったが、一生懸命、首を振って拒否する姿さえも、可愛いと思ってしまう。
「でも、またカノンが迷って、他の鬼に襲われても嫌だし……」
「じゃ、じゃあ……」
カノンはきゅっと鬼八郎の着物の袂 を握った。
「これじゃ……ダメですか……?」
「うっ……!」
カノンの必殺技、涙目上目遣いが炸裂した。
鬼八郎の心臓は撃ち抜かれ、倒れそうになる。
(カノン……わざとか!?わざとなのか!?)
いっそ、そのまま抱き締めて抱き締めて抱き締め尽くしたい気持ちになったが、ぐっと我慢をして、何でもないような顔で「いいよ」と言った。
「何やってんだ、お前ら」
鬼一が呆れながら、やって来た。
「早くしねぇと、宴会始まるぞ。始まる前に言うんだろ?」
そうだ。始まったら、最後までどんちゃん騒ぎだ。
カノンの話ができなくなる。
「分かったよ、行くから。カノン、行こう」
カノンは鬼八郎の着物の袂を握りながら、こくりと頷いた。
宴会場には、すでに首領である鬼三衛門が上座にどんと座っており、その横に側近である神無 という丸坊主の深緑の僧侶の格好をした鬼が胡座をかきながら、酒を飲んでいる。
神無は、精悍な顔をしており、少し無精髭が生えている。
「若が、人間を買ったらしいな」
神無は酒を飲みながら、鬼三衛門に話しかけた。
「あ?鬼八郎が?何で、急に人間なんか?」
「さぁ?なかなか高値で買ったと鬼一から聞いた」
神無は鬼一の育ての親で、よく鬼八郎のことも話をしていた。
「高値ってどれくらいだ?」と鬼三衛門が聞こうとすると、鬼たちが騒ぎ出した。
二人は入り口を見ると、黒い着物を着た、首領と同じ赤髪の鬼若が入ってきた。
後ろに小さな人間をつれて。
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