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◯◯◯◯もの好き

〈鬼八郎目線〉 親父は宴会場の上座にどんと座っている。 隣には神無(かんな)さん。 相変わらず、あの二人の威圧感はんぱねぇ。 周りの鬼はカノンのことを話してるんだろう。 くそっ、あんまカノンのこと、見んな。 (たもと)を掴むカノンの手が震えている。 自分のことを言われているのだと気付いているのだろう。 「怖かったら、抱きついてろ」 俺はカノンに腕を差し出した。 カノンは遠慮がちにぎゅっと俺の腕に抱きついた。 うん、可愛い。 そういえば、最近カノンを見て「可愛い」しか言ってない。……っていうか、初めから「可愛い」しか思ってないか。 「若、久しぶりだな」 神無さんが杯をあげながら挨拶する。 「お久しぶりです。神無さん」 俺は一礼する。神無さんは、鬼一(きいち)の育ての親で、俺らの先生でもある。 学があって、武道の心得もあり、まさに文武両道とはこの人のためにあるんだなって思う。 「ふぅーん……その子が、若が買った人間か」 俺の横にぴったり引っ付いているカノンを見た。 カノンはびくびくしながら、ぎゅっと更に強く俺の腕に抱きついた。 「神無さん、あんまり見ないでやって。まだ俺らが怖いんだ」 「そうか……。すまんな」 神無さんは、口角を片方あげながら謝った。 親父はというと、じーっとカノンのことを見つめている。 だから、あんま見んなっつってんだろ! 「………名前は、何て言うんだ?」 やっと口を開いたかと思うと、カノンの名前を聞いてきた。 「カノンっていう……」と俺が言いかけると、 「てめぇに聞いてんじゃねぇよ!!……その子に聞いてるんだ」 何で、俺が怒られなきゃいけないんだ……。 カノンは親父の一喝にビビりながらも、小さな声で、「あの、えっと……カノンです」と答えた。 「ご趣味は?」 お見合いか。 「えと……人間界に住んでたときは、本を読むのが好きでした」 そうだったのか。 明日、鬼三(きさ)に言って、本屋でありったけ本を買いに行かせよう。 「どういう本?」 親父は何でそんな突っ込んで聞くんだ。 「魔法使いが出てきたり、お姫様や勇者が出てくるような、夢のあるお話が好きです……」 「好きな花は?」 まだ質問するんかい。 俺も気になるけど。 「コスモスが好きです!……祖国がなくなる前、お母様と一緒に植えて……」 急に言葉がつまり、カノンの両目には涙が浮かぶ。 「僕……っ、最後にたくさんのコスモスを植えて……、でも、全部全部焼けちゃった……っお母様とお父様、お兄様……、一緒にコスモス、見たかっ……たぁ……」 大粒の涙が、二色の瞳から溢れだした。 堤防が決壊したように、涙が止まらず、嗚咽をあげながら、カノンは泣いた。 俺は肩をポンポンと叩きながら、慰める。 辛かったよなぁ……カノン。 周りの鬼たちも、「ぐず……っ」とか「なんてひでぇ話だ……」とかカノンにつられて泣いている。 神無さんは酒を呑みながら、しれっとしているが、隣の親父も目頭を押さえながら泣いている。 宴会場が、何故か感動の渦に巻き込まれていた。 親父は目頭を押さえながら、「合格だ……」と呟く。 「は?」 「カノンちゃんは、俺たちの一族に加えるぞ!!」 親父は堂々と宣言した。 こんな段階を踏むとは思わなかったが、俺には分かっていた。 親父がカノンを認めることを。 だって、親父は……、 「カノンちゃんは、こんなに健気で優しく、単細胞馬鹿息子に尽くしてくれて……」 誰が単細胞馬鹿息子だ。 言っとくが、その単細胞馬鹿息子の親がお前だからな。 「何より、小さくてかわいい!!」 ……息子としては、かなり恥ずかしいのだが、親父は無類の可愛いもの好きだ。 そして、そんな重要でもない台詞に太字を使うな! 「お前ら!異論ないな!?」 親父は他の鬼たちに問う。 他の鬼たちは、 「異論なんてねぇーよ!」 「故郷がなくなったなんて……本当にかわいそうだ……」 「カノンちゃーん!ここを第二の故郷にしてくれぇ!」 「結婚してー!」 「カノンちゃん、頑張れ!!」 カノンに同情や応援の声が多い。 「……っていうか、誰だ!?今、カノンに結婚申込んだ奴は!表出ろやぁ!!」 俺が他の鬼たちに吠える。 てめぇらなんかに、カノンをやるか! 「あんたは、本当に可愛いもん好きだな……」 もう慣れたと言わんばかりに神無さんはため息をついた。 昔から親父は小さいものや可愛いものが好きで、自分の庭に小動物を集めて、動物園まで作ってしまった程だ。 「鬼八郎、カノンちゃんを抱っこさせてくれ」 親父は両手を広げてきたが、俺はカノンをぐっと引き寄せ、 「誰がそんなことさせるか!くそ親父!」 あっかんべー。 「この………っ、馬鹿息子がぁぁぁ!!」 親父は青筋たてて、怒鳴りちらした。 そっからは、もうどんちゃん騒ぎ。 酒を飲んだり、料理を食べたり、鬼たちが裸で踊り出したり……。 夜中の0時を回る前には、カノンはぐっすり寝てしまったから、俺はカノンを抱えて部屋に戻った。 布団の上にカノンを眠らせると、頬を撫でた。 ぬるい風が部屋の中を通っていく。 ガタリと廊下から物音がした。 「誰だ?」 「俺だよ……鬼八郎」 一升瓶を持った神無さんだった。 手に持った一升瓶を軽く持ち上げ、にやりと笑った。 「久々に一杯やろう」

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