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俺にとって、カノンは……
〈鬼八郎目線〉
俺と神無 さんは屋根の上で、よく酒を呑んで、語り合っていた。
ふたりで呑む時、神無さんは俺のことを鬼八郎と呼ぶ。
俺らは、窓から屋根に降りた。
「鬼八郎と呑むなんて、久々だなぁ」
「最近、忙しそうでしたね。親父もしょっちゅう他の島、見に行ってたし……」
「まぁ、……色々とな」
神無さんは、少し含みのある言い方をしたが、それを飲み込むように、酒をぐいっと呑んだ。
「……なぁ、鬼八郎、お前、あの子のこと、どうするつもりだ?」
「あの子って、カノンのこと?どうするって、どういうことだ?」
俺は首をかしげながら、酒を呑む。
「好きなんだろ?あのカノンって子のこと」
さらっと言った言葉に、俺はむせた。
「な、何で……知って……!?」
「お前、あれで隠してたのかよ……」
ある程度、隠してるつもりでした……。
バレてたことに、軽く衝撃を受けていると、「慎重になった方がいい」と神無さんは言った。
「え?……それって、どういう」
「端的に言えば、諦めろってことだ」
さらりと何でもないように言う神無さんに、俺は少しイラッとした。
「諦めろって……カノンのことを?」
「そうだ。諦めたくないのか?」
「当たり前だ!俺はカノンのことが好きだ!!」
そう。俺はカノンが好きだ。
闇市で出会ったあの日から、俺はカノンに心を奪われたんだ。
「じゃあ、お前は一生、あの子を元の世界に戻さず、ここに置いておくって言うんだな」
神無さんの言葉に、俺はぐっと言葉が詰まった。
『帰りたい……っ』
カノンの言葉が頭に甦る。
あの青と紫の瞳が涙で揺れていた。
訳のわからないまま、魔界に連れてこられて、鬼に買われて……カノンにとっては散々だったことだろう。
「っていうか、何で神無さんが、カノンが帰りたがっていること知ってんだよ」
「鬼一 に聞いた」
あのおしゃべりめ。
神無さんには、何でもベラベラしゃべりやがる。
神無さんは、相変わらずしれっと酒を呑んでいる。
「帰してやるっていうなら、お前とあの子には、いずれ別れが訪れる。お前の恋は叶わない」
神無さんは、じっと俺を見た。
きっと神無さんは、正しいことを言っている。
間違ったことなんて、言っていないし、言ったことがない。
「あの子をどうしていくのか、ちゃんと考えとくんだな。お前はここの跡取りだ。ここからは離れられないぞ。……お前の不良兄さんが帰ってこない限りはな」
神無さんは、立ち上がり、窓から中へ入っていった。
「すぐに答えは出さなくてもいいがな……ただ、お前があの子のことを想っているなら、あの子のためにも、ちゃんと考えてやれ」
神無さんは、俺に大きな課題を残して、戻っていった。
考えるのは苦手だ。
下の宴会場から騒がしい声が聞こえる。
夜明けまで続くんだろうな。
いつもだったら、騒がしいと思う声も、今だけは迷う心を少しだけ紛らわしてくれている。
夜空を見上げると、満天の星空。
「……考えるのは、苦手なんだよ」
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