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お布団の中で

朝。 そのままカノンは言葉通り、鬼八郎(きはちろう)の傍にいた。 「また苦行……」 隣ですぴすぴと寝ているカノンを見ながら、鬼八郎は呟いた。 誓いあった夜、カノンが眠たそうに目をこすっていたため、「ぼちぼち寝よう」と声をかけた。 カノンの部屋まで行って、「おやすみ」と自分の部屋に戻ろうとしたら、袂をくいっと引っ張られる。 見ると、カノンは袂を引っ張りながら、 「お傍にいます……」 と恥ずかしそうに上目遣いで小さく言った。 その姿に鬼八郎は心の中で悶絶し、顔が沸騰した。 「ま、まだ怖い?」 「……?お傍にいるとお約束したからです」 へへっと照れ臭そうに笑うカノンが可愛くて仕方がなくなる。 鬼八郎は、せめていかがわしいことをしないようにカノンの部屋で寝ることにした。 カノンの部屋は元々、鬼八郎の母親の部屋なので、なんとなく、そういうことはできないだろうと思ったからだ。 ただ…… 「ダメですっ!ちゃんとお布団に入ってください!風邪を引いてしまいますっ!」 お互い寝るときの浴衣に着替えて、二人は布団の上で正座していた。 正座をしながら、布団に入る・入らないで揉めていたのだ。 「いやいやいやいやいや!!大丈夫!!マジで大丈夫だから!!それに、布団取ったら、カノンが冷えちまうだろ!?」 「大きなお布団だから、大丈夫ですよ?」 確かに大きな布団だ。 二人くらい余裕そうだし、カノンは小さいからそんなに心配しなくても大丈夫そうではあるが……。 「いや、ダメだ!(俺の心臓的に!)」 そう。鬼八郎はかわいいカノンを横にして、変なことをしないという自信がなかったのだ。 あまり拒否をするため、カノンはだんだんと涙目になって、少しムッとした顔をする。 「鬼八郎様は……僕に傍にいてほしいと、言いました……あれは、嘘だったのですか……?」 少し頬を膨らませながら、カノンが睨んだ。 「……布団、一緒に入らせてもらいます」 鬼八郎は三つ指ついて、頭を下げた。 鬼八郎の完敗であった。 布団に入ると、カノンの温かさが直に伝わる。 横を見るとカノンがいる。 「あったかいですね」 「……あぁ」 「お父様たちは、まだ宴会されてるんですか?」 「多分、夜明けまでやってるよ。いつもそうなんだ」 「夜明けまで……。すごいですね」 「うるさいだろ?」 「楽しい夢を見られそうです」 カノンはクスクスと笑う。 小さな声で囁きながらの会話は、鬼八郎にとって癒されるものではあったが、少し恥ずかしかった。 しばらく、他愛のない話をしていたら、カノンがうとうととしだした。 「眠たいだろ……?もう、寝ろよ」 「……鬼八郎、様も……ゆっくり休んで……くださぃ、ね……」 カノンはぐっすりと眠りに落ちた。 この安らかな顔を見ていると、鬼八郎も眠たくなった。 (何もしないから、手だけ……繋いでもいいかな?) 鬼八郎はカノンの小さな手をぎゅっと握った。 そして、冒頭に戻る。 手は繋いでいるのだが、カノンは寝ぼけていたのか、鬼八郎の腕に自分の腕を絡ませている 。 直にカノンの体温を感じてしまい、鬼八郎はなんだか変な気分になる。 (顔が近い……!吐息が直にかかって……!駄目だ……理性がもたない。一旦、布団から出て……) と鬼八郎はゆっくり出ようと布団を少しだけめくる。 「………っ!?」 鬼八郎は慌てて布団を戻した。 そして、もう一度布団の中を覗いた。 そこには白く輝く太ももが二本あった。 (もう、駄目だ……カノンの全てが、俺の理性を崩壊させてる……) 鬼八郎は、もう我慢の限界にきていた。 「カノンが……悪いんだからな」 我慢できない自分を棚にあげ、カノンのせいにしてみる。 そして、自由な方の腕を動かし、そーっとカノンの太ももに触れた。 (ふにふにしてて、柔らかい……。すべすべしてるし……これで、本当に男なのだろうか……) 「んん……」とくすぐったかったのか声をあげ、カノンの金色のまつげが震えた。 思わず、手を引っ込める。 (うぅ……やっぱり、唇に目がいく……口づけしてみたい……でも、目が覚めたら……) カノンのぷっくりとした唇がむにゃむにゃと動く。 「……き、はちろぅ、さま……それは、コスモスじゃなくて……タンポポです……」 カノンはふにゃふにゃと寝言を言いながら、笑っていた。 (な、何の夢を見てるんだ……さすがにタンポポとコスモスの見分けぐらいつくんだが……) でも、楽しい夢を見ているなら、良かったと鬼八郎は思った。 泣き顔が多いカノンだが、笑顔を増やしてやりたい。 帰るまでは……と鬼八郎は心の中で思う。 そして、例の如く、鬼一(きいち)が朝食の用意ができたと冷たい声で呼びに来るのだった。

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