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祭りの準備

鬼一(きいち)は、(るい)に祭りの広告を渡した。 「もうすぐ、火山祭(かざんさい)があるんだ。ここらへんの店はだいたい出店(でみせ)を出す」 類は広告を受け取り、目を通した。 「そうなんですね……。参加したいんですが、まだここに来たばかりで、商品があまり整っていないんです」 「祭りはまだ二ヶ月先だ。出店をするものは、祭りの二週間前までに申請してくれればいい。これが要項と申請書だ。提出は鬼ヶ城の祭実行委員会まで。良ければ検討してくれ」 鬼一は丁寧に説明し、申請書を渡した。 祭りの実行委員の委員長は鬼八郎(きはちろう)なのだが、皆様のご想像通り、こういう事務系の仕事は向かないため、だいたい鬼一に任せている。 「ありがとうございます。考えさせてもらいます」 「俺たちはまだ見回りがあるので、失礼する。おら、行くぞ」 鬼一は、まだガラスケースを見ている鬼八郎を引っ張りながら、店を出た。 「類!指輪ありがとう!また来るからな~~!」 鬼八郎は、類に手を振って別れた。 「あの男、お前のこと知ってたな」 鬼一は店の一覧表を見ながら、呟いた。 「俺、顔広いからぁ~」 鬼八郎は得意気にそんなことをいっているが、鬼一は紫宝堂が店を開いた日が気になった。 一覧表によるとカノンを買った二日後に店を開いている。 しかも、西洋との取引がある。 (何かあると思うのは、俺の考えすぎか?) 鬼一は、パタンと一覧表を閉じた。 ―――― 「スバル、今度お祭りがあるらしいよ」 紫宝堂の二階は、工房になっており、褐色の肌をした大きな男が、机の上で石を削っている。 机の周りには、原石がゴロゴロ転がっており、全て加工待ちの石たちだ。 「ねぇ、聞いてる?スバル」 類はスバルという男の肩を叩く。 スバルは類の方を見る。 スバルは右目を眼帯で隠しているため、左目しか見えない。 「怒ってるの?」 スバルはぐいっと類の胸ぐらを掴み、自分の顔の近くまで引き寄せる。 「お前、あの男に色目使ったろ」 「あの男って……若様のこと?使ってないよ……っていうか、見てたのか」 「……お前は、渡さない」 左目で強く類を射抜く。 「僕は、お前だけのものだよ……スバル」 類はそっとスバルに口づけをした。 ――火山祭まで、あと二ヶ月。

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