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喧嘩

「若、その指輪、あいつにあげるのか?」 「え?」 鬼一(きいち)のいうあいつ……とはカノンのことだろうかと、鬼八郎(きはちろう)は思った。 「当たり前だろっ!カノン以外にやるわけねーじゃん!!」 「そんな指輪渡したところで、お前のものになる訳じゃないだろ」 その言葉を聞き、鬼八郎はムッとなる。 別に自分のものにしたいとか、そういうことではない。 鬼八郎は贈り物というものをしてみたかったのだ。 喜ぶ顔を見てみたいだけ。 「鬼一、お前何なんだよ!いちいち突っかかってくんなよ!」 「若は、何にも考えちゃいない!あいつは、闇市の商品だ。若があいつをどうするつもりか知らないが、若とあいつは、住む世界が違うんだ!!」 鬼一は負けじと反論する。 鬼八郎はぐっと握りこぶしをつくる。 (そんなこと、分かってる……それでも、一緒に居られる今だけでも、カノンの笑顔が見たいと思うことはいけないことなのか……?) 「住む世界が違うのも分かってる。でも、やっぱり、カノンが好きだ」 鬼八郎は、まっすぐ鬼一を見た。 その瞳には強い意志が見てとれる。 「……俺、約束したんだ。必ずカノンが帰れるように手がかりを探すって」 「手がかりって……」 また無茶なことを約束して……と鬼一は、呆れている。 無茶なことは分かっている。 けど、カノンの望みを叶えてやりたい。 「………っ、勝手にしろ」 鬼一は、小さく吐き捨てると、先に見回りに行ってしまった。 取り残された鬼八郎は、何故あんなに鬼一が怒っているのか分からずにいた。 鬼ヶ城に戻り、真っ先にカノンの所に行く。 「カノン!ただいま!!」 カノンの部屋に飛び込むと、鬼三(きさ)と二人で本を見ていた。 本から顔をあげて、カノンは満面の笑みで出迎えてくれた。 「おかえりなさい!」 「若、おかえりなさいっす!」 「本読んでたのか?」 本を見ると、子どもが読むような絵本だった。 「かぐや姫のお話っす!」 「竹から生まれるお姫様のお話って、初めて読みました!」 「あー!かぐや姫な!えっと、竹から生まれたかぐや姫がどんどん大きくなって、男から言い寄られるんだけど、それを突き放して、『こんな世界を変えてやる!』って一念発起し、お供をつれて、悪霊を懲らしめる話だろ?」 鬼八郎の言葉を聞いて、二人はキョトンとしている。 「もしかして、続きのお話には、そのような冒険が待ち構えているのですか!?」 「若……多分それ、何かと混ざってるっす……!!」 こんな話じゃなかったっけ?と鬼八郎は首をかしげる。 すると、障子が開き、鬼一が現れる。 鬼八郎と目が合うと、すぐに目線をそらせた。 その態度に鬼八郎もイラつく。 「若、あと一時間したらいつものところで祭りの会議だ。遅れるなよ。鬼三、来い」 用件だけ伝え、鬼三を呼びつけ、出ていった。 鬼三は、「はいっ!若、カノンさん、失礼するっす!!」と90度のお辞儀をして、鬼一の跡を急いで追った。 「何だか……鬼一様、怒っているようでしたけど……」 カノンは鬼八郎を見ると、鬼八郎も口を尖らせてムスッとしている。 何かあったんだと、カノンは悟り、鬼八郎の手に自分の手を重ねた。 「何かあったのですか……?」 「いや……何っていうか……」 急に手を重ねられたため、鬼八郎は胸が高鳴った。小さく温かな手にドキドキしてしまう。 「鬼八郎様……僕、鬼八郎様にたくさんたくさん助けてもらいました。だから、僕も鬼八郎様のお役に立ちたいんです。鬼八郎様が話したことは、決して外に漏らしません!だから、少しでも心が軽くなってほしいんです。僕にはお話を聞くことしかできないから……」 「カノン……」 鬼八郎は、カノンがそんなことを思っていたことに驚いた。 鬼八郎は、おずおずと木箱を取り出し、カノンに手渡した。 鬼一と喧嘩した原因だ。 「これは?」 「……開けてみてくれ」 鬼八郎に促されるままに、木箱を開ける。 そこには、『紫宝堂(しほうどう)』の店主である(るい)からもらったアメジストの指輪が入っていた。 「わぁ……!アメジストだ!」 カノンは目をキラキラさせて、感動している。 「知ってるのか?」 「はい、僕の国は鉱石が有名で、たくさんの宝石類も発掘していたんですよ」 「これ、カノンにあげようと思って、もらってきたんだ」 「え!?」 鬼八郎は、指輪を取り出し、カノンの手のひらに乗せた。 「い、いいんですか……?」 「カノンの瞳に似てると思ったから……カノンの瞳は本当に綺麗だと思う」 カノンは一瞬、ぼっと火が付いたように赤くなり、ふわりと笑う。 「ありがとう、ございます……へへっ」 カノンはしばらく、指輪を見つめ、 「鬼八郎様、どの指にはめましょう?」 とカノンは首をかしげる。 「そんなの……」と鬼八郎が言いかけるが、鬼八郎も指輪は指につけるものだと漠然と思っていたので、どの指につけるかなど、全く考えていなかった。

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