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指輪を巡る二人の気持ち

鬼八郎(きはちろう)目線〉 え?指輪って、指にはめるものでしょ? どの指にはめるって……指によって何か違うのか?? 俺は頭の中で、はてなを飛ばす。 おもむろに、カノンの左手をとった。 カノンは「鬼八郎様?」と小首をかしげる仕草をする。 うん、今日も問題なくかわいい。 カノンのかわいさ確認の後、カノンの細い指に指輪をはめていく。 まずは親指から……さすがにきついか…… 次は、人差し指……も、第2関節からは入らないか…… 中指……もダメかー…… 薬指……おっ! 「入った!」 なんとぴったり! まるで、あつらえたようにぴったりだったので、俺はカノンに「ぴったりじゃん!」と言いながら、顔を見ると、頬が赤らんでいる。 「カ、カノン?大丈夫か?」 「あ……鬼八郎様は、その……こういうものを女性に贈ったことなどはあるのでしょうか……?」 恥ずかしそうに聞くカノンもかわいい~♪ 「……鬼八郎様?」 ちょっと上目遣いがいいんだよね。 「聞いてますか?」 聞いてる聞いてる。カノンのかわいい声を聞き逃すわけないじゃん。 「鬼八郎様ってば!」 少しムッとしながら、カノンは俺の顔のド真ん前で叫んだ。 「っ!聞いてます!!」 思わずカノンの顔を見入ってしまい、地の文で会話してしまった……。 俺、顔やばかったかも。 鼻の下、多分10センチくらい伸びてたかも。 「えっと……俺、指輪を贈るの初めてだよ?」 「そうなのですね……」 カノンは少しほっとしたような笑顔を見せた。 〈カノン目線〉 鬼八郎様に指輪を頂いた。 アメジストが付いている指輪で、派手な装飾はないけど、シンプルで使いやすそうな指輪だった。 けど、どの指につけようかな。 指輪ははめる指によって意味が違うのだと、昔お兄様に教えてもらったことがある。 お兄様も親指に付けていたりしてたっけ……。 確か、親指につけると「リーダーとしての指導力を伸ばす」とか、「パワーを受けやすくて、大きな願いを叶えてくれる」とか……そんな、力を与えてくれるって聞いたことがある。 「カノンの瞳に似てたから……カノンの瞳は本当に綺麗だ」 僕の瞳に似ていたからアメジストを選んでくれたと聞いて、僕はとても嬉しかった。 鬼八郎様に「どの指につけましょうか?」と聞いたけど、よく分かっていない様子だった 鬼八郎様は僕の左手を取って、順番にはめてくれた。 順番にはめていくと、薬指にぴったりはまった。 「入った!ぴったりじゃん!」 薬指、その指は…… 結婚を約束するときに指輪をはめる指 お母様もお父様も、そこに指輪をはめてた。 僕は顔が熱くなった。 鬼八郎様は、そういうつもりではめているのだろうか……? でも、すごく普通に指輪をはめたから、きっと知らないのかもしれない。 でもでも……っ、もし、女の人にあげてたら……? 僕がこんなにお側にいちゃいけないんじゃないのかな……? 僕は鬼八郎様の隣に女の人がいることを想像した。 僕と同じような指輪をはめて。 きっとその方が鬼八郎様は幸せになれる。 だって、僕は奴隷だし、帰りたいって駄々ばっかりこねるし、その上帰れるように手がかりまで探してもらって……迷惑ばかりかけてる。 すごく、胸の中が、モヤモヤする…… 「あ……鬼八郎様は、その……こういうものを女性に贈ったことなどはあるのでしょうか……?」 「えっと……俺、指輪を贈るの初めてだよ?」 初めて…… 「そうなのですね……」 よかった……と僕はとても安心した。 鬼八郎様は、僕が何でこんなに安心してるのか、よくわかってないみたいだった。 僕は何も役に立たないから、せめて、「お傍にいます」という約束は果たしたいんです。 きっと胸のモヤモヤは、約束が果たせないと思ったから、モヤモヤした……だけだと思う。 鬼八郎様の明るい笑顔があれば、僕はそれだけで元気になれる。 薬指につけた指輪を、僕はそっと指で撫でた。

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