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火山祭って何?
障子がさっと開いて、鬼三 が慌てた様子でやってくる。
「若!もうあと5分で会議っすよ!!兄貴が鬼になってるっす!!」
鬼三は両手の人差し指を頭にやって、角が生えている真似をする。
「え!?マジか!っていうか鬼一 は元々鬼だからな!」
「あ、そっか!」と鬼八郎 の突っ込みに納得する鬼三。
「けど兄貴、めっちゃ怒ってるっす……!噴火しそうっす!会議室の空気が悪すぎて、体調不良の鬼も出てきてるっす……」
「どんだけ怒ってるんだよ!カノン、行ってくるな。鬼三、お前カノンについてやってくれ」
「はいっす!あ、兄貴が五秒で来いとのお達しっす……!」
「そんなに早く行けるかーーーー!」と怒りながらも、鬼八郎はものすごい早さで出ていった。
カノンは「お気をつけてー!」と廊下に向かって大声で言う。
既に鬼八郎の姿はなかったが、遠くで「はーい!」という返事だけが聞こえた。
鬼八郎はカノンと出会ってから、カノンの声だけは絶対に聞き逃さないという特殊スキルを獲得していた。
「最近、鬼八郎様はお忙しそうですね……何かあるのですか?」
「二ヶ月後に『火山祭 』っていう祭があるんす」
「火山祭?」
「年に一度の大きなお祭りで、あそこに見える大きな山、煌竜山 の神様に捧げる祭なんすよ」
鬼三は障子を開けて、指さす。
大きな山が見える。今は休火山らしく、煙なども出ていない。
「あれは火山っす。あの火山に昔、竜神様が住んでいて、鬼たちに繁栄をもたらしてくれたらしいっす。今もあの火山に眠ってて、年に一度、竜神様に供物をあげて、大太鼓で慰めて、お祀りするんすよ」
「へぇ……大きなお祭りなんだね?」
「年に一度の祭だから、皆気合い入ってるんす!出店とかもあるし、あと大太鼓の演奏もあるんすよ」
「大太鼓?」
「毎年、大太鼓は若と兄貴が叩いてるんすよ!女の子達がキャーキャー言ってて、凄いんす!」
鬼八郎と鬼一は、毎年大きな櫓 の上で大太鼓の演奏をしている。
二人の若く勇ましい姿に、町の女の子達は惚れてしまうのだ。
「すごい……!僕も見てみたい!!」
「きっと若に言ったら、見せてくれるっすよ。若はこの祭の実行委員長だから」
「実行委員長?すごい人?」
「祭の実行委員長と副委員長は町の選挙で選ばれたものしかなれないっす。他の委員も推薦で選ばれるんすよ」
「じゃあ、鬼八郎様と鬼一様は町の人たちに選ばれたすごい人なんだね!」
「そういうことっす!!」
鬼三が選ばれたわけではないが、胸を張って言いきった。その姿にカノンはキラキラした目でふんぞり返っている鬼三を見ていた。
その頃、会議室では……
「花火の数は、去年よりも多い方が盛り上がるだろ!」
「けど、予算が足らねぇからなぁ」
「どっか削れないのか?」
「どこも必要なものばかりだな」
「供物を減らすとかは?」
「却下だな。長老や神官の顔も立てねぇと……若、どうする?」
委員の鬼たちは予算のことで話し合いをしていた。
話を振られた鬼八郎は、予算案の書類を見ながらうーんと唸った。
「会場装飾らへんを、何とかできねぇかな?」
鬼一は、過去の祭の書類を見ながら、「そうだな……」と返事をする。
「会場装飾の予算を半分に割って、半分は花火などの備品にまわす。装飾は去年のものを使いながら、残りの予算で古くなったものを買い替えたり、新しく作る方向でいいんじゃないか?」
「じゃ、それでいこう。他はどうだ?」
鬼一がてきぱきと案を考え、異論がなければ、鬼八郎が他の委員に意見を募る。
会議は二時間ほどで終わり、解散した。
会議では普通に話せていた鬼八郎の鬼一だったが、終わるとすぐにぎこちない雰囲気になった。
「指輪、渡したからな」
鬼八郎は部屋に戻る道すがら、鬼一に話した。
「別に。あいつはお前が買ったんだろ。俺が口出ししすぎた。……悪かったな」
鬼一は相変わらず鬼八郎と目を合わせず、前を見ているが、ぶっきらぼうな言い方が鬼一らしいと思った。
「俺も……カノンを帰す手がかりを探すこと、お前に言ってなかったなって思って……ごめん。できたら、お前にも協力してほしい」
「お前はあいつが帰ることが決まったら、どうするんだ?」
「ここに残るよ。……俺はここを離れちゃダメだろ?」
鬼八郎は、少しだけ寂しそうに笑った。
鬼一は、「そうか」と短く返事をした。
「おやおや~~?相変わらず仲が良さそうじゃないか~?」
鬼八郎と鬼一が仲直りした直後、変にねちねちした嫌らしい声音が背後から聞こえた。
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