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四鬼はウザい子

「げ」と鬼八郎(きはちろう)鬼一(きいち)は声を揃えて、嫌な顔をした。 (面倒な奴に捕まった) 二人は心の中で、そう思った。 「『げ』とは何だね!ははーん、さては『元気ですか?四鬼様、今日も麗しい』と言いたかったが、私の美しさのあまり『げ』で止まってしまったんだね?」 「お前、相変わらず妄想が激しいな」 鬼八郎は辟易した。 こいつと関わると疲れ方が半端ないのだ。 流れるような銀髪。白い肌。少し細い金色の目。長身で容姿だけは王子様のようだ。 しかし中身は、自信過剰・自意識過剰の自分大好き野郎という、あまりお友達にしたくない性格をしている。 名前は、四鬼(しき)。 鬼八郎の従兄弟である。 鬼八郎の父である鬼三衛門(きざえもん)の弟の息子にあたる。 鬼三衛門の弟は神社で神官をしている立派な鬼だが、どう育て方を間違ったのか、四鬼は上記のような「ウザい子」に育ってしまった。 「鬼八郎、君はいつになったら、僕と結婚を前提に付き合ってくれるのかね!?」 そして、鬼八郎の自称婚約者でもある。 「はぁ?だから、無理だっつってんだろ!」 「私はこんなにも美しいのに……何が、何が不満なのかね!?」 「全部だよ!」 とにかく毎度毎度、鬼八郎に告白しては玉砕している。 鬼一は、そっとその場を抜け出そうとしたが、「僕とお付き合いした暁には、そこにいる鬼一くんも僕が面倒を見よう!」と即座に巻き込まれた。 「何で、てめぇに面倒見てもらわなきゃいけねぇんだ?俺にも選ぶ権利あるわ」 鬼一は青筋を立てて、怒る。 「鬼一が欲しかったらやるから、俺に関わるんじゃねー!」 鬼八郎は急いで走って逃げた。 「てめぇ、売りやがったな!」とその後を鬼一が追いかける。 「待ちたまえ!」と全力で四鬼が追いかけてくる。 鬼八郎は急いで階段を掛け登り、カノンの部屋に逃げ込む。 あまりにすごい勢いだったので、カノンも鬼三も驚いた。 「どうしたんすかっ?若」 「すごい汗……!」 カノンは小さなタンスの引き出しから、手拭いを出して、転がり込んできた鬼八郎の額を拭った。 「どうかされたのですか?」 心配するカノンの瞳が不安げに揺れている。 鬼八郎はその姿を見て、思いっきり抱き締めた。 「カノン!俺の癒しぃぃぃ!!」 「く、苦しいです……っ、鬼八郎様!」 「カノンさんが潰れちゃうっすよ!」 カノンと鬼三があわあわしていると、今度は鬼一が入ってきた。 「若、てめぇ、俺を売りやがって!!」 「いや、お前らお似合いだって!」 「ふざけんなっ」と息を整えながら、鬼一は鬼八郎にツッコミを入れる。 「見ーつけた!鬼八郎!今度こそ、私のものに……って、その子は誰だ?」 めげずに追いかけてきた四鬼は、鬼八郎が抱き締めている子を見た。 カノンは、ぷはっと鬼八郎の腕が緩んだ隙に顔をあげた。 金色の髪に、くすみのない白い肌、桃色の唇、青と紫の美しい瞳を持つ、人間だった。 「に、人間!?何だって、人間がここにいるのだね!?」 そういや、この前の宴会には来てなかったな……と鬼八郎は思い出した。 「説明するのめんどくせぇ……とにかく、カノンは俺の大事な大事な大事な大事な大事な大事な人間だから、俺のことは諦めろ!」 鬼八郎は、カノンをぎゅっと抱き締めながら、四鬼に言い放った。 四鬼はわなわなと口と手が震えている。 「カノンだと……!?私でさえ、ちゃんも名前を呼ばれたことがないのに……そして、抱き締められたことさえないのに……!」 四鬼はキッとカノンを睨む。 カノンは自分に敵意を向けられていることに気づいたのか、ごくりと息を呑んだ。 「決闘だ……!二ヶ月後の火山祭で行われる美人自慢大会に出場しろ!そこで優勝したら、鬼八郎と結婚できる!」 「えええ!?」 カノンと鬼八郎は、同時に驚く。 特にカノンは名前も知らない鬼に何故か敵意を向けられて、何故か美人自慢大会という謎の大会に参加させられそうになっていることに戸惑った。 状況が飲み込めない鬼三は右往左往しており、鬼一は頭を抱えた。 「カノン、君と私は宿敵だ……っ!私は絶対に負けないっ!!」 四鬼にびしっと指をさされ、カノンは「え?え?」と鬼八郎の腕の中で戸惑う。 四鬼はそれだけ言いきると、スパンっと障子を閉めて出ていった。 「何だったんだ……あいつ」 取り残された四人は、突然やって来た台風にただただ翻弄されたのだった。

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