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妄想もほどほどに

鬼八郎(きはちろう)は、カノンと鬼三(きさ)四鬼(しき)とのいきさつを説明した。 「あ、あの……っ、本当に本当に四鬼様とは、婚約者ではないのですか……っ?」 「断じて違うっ!」 カノンはその言葉に安堵した。 本当に婚約者だったら、自分は邪魔者でしかないと思ったからだ。 「全く、あいつはいつもいつも、俺を追いかけ回してくるんだ……。カノン、大会なんか出なくてもいいからな」 「……出なくていいのですか?」 「え、出たいの?」 カノンの意外な言葉に鬼八郎は驚く。 美人自慢大会は、町の美男美女が集まる大会で、男性部門と女性部門に別れて、その年の町一番の美男美女を決めるのだ。 ちなみに…… 「兄貴は殿堂入りしたんすよね!」 鬼三は悪気なく、笑顔で言う。 その瞬間、鬼一(きいち)は鬼三の頭をつかみ、ギリギリと握力だけで、鬼三の頭を潰そうとする。 「あ、兄貴!?潰れるっす!!いだだだだ!!」 「その事には、二度と触れるな」 目の前に般若がいる。 「い、言わないっす!金輪際言わないっすーーー!!」 鬼三は涙目で懇願し、何とか許してもらえた。 鬼一にとっては、嬉しくもない、むしろ消し去りたい思い出なのだ。 「……悪いことは言わない。出ない方がいい。男としての尊厳を踏みにじられるぞ」 カノンに向かって鬼一がいう。 「そ、尊厳ですか?」 カノンはポカンとしているが、鬼八郎はケラケラと「鬼一、綺麗だったじゃん」と笑いながら言った。 「うるさいっ!それ以上言うな!!」 鬼一はキッと鬼八郎を睨みながら、怒鳴る。 カノンはいまいちピンとこず、首をかしげている。 「鬼八郎様、何故鬼一様は怒ってらっしゃるのですか?」 鬼八郎はカノンの耳元まで顔を近づけ、こそこそ話す。 「美人自慢大会って、男性は女装して、女性は男装するんだよ」 「えぇ!?」 「言うなって言ってんだろ!」 「『言うな』って、それフリだろぉ?」と、鬼八郎はニヤニヤする。 いつも鬼一には怒られたり、(たしな)められたりしているので、ここぞとばかりに仕返ししている。 「カノンも出るんだったら、女装だぞ~?」 鬼八郎の言葉を聞いて、「あうぅ」とカノンは眉毛をハの字にする。 「……鬼八郎様は、僕の女装なんて見たくないですよね……」 「え?」 鬼八郎はもわもわもわーんと想像する。 お花畑の中で、カノンが微笑んでいる。 桃色の着物を着て、くるりと回って、『どうですか?似合いますか?』と聞いてくる。 勿論さ。カノンは何着てもかわいい。 『じゃあ、この緑の着物は?』 カノンの金色の髪によく合ってる。かわいい! 『今度は……これはどうですか?』 紫色の浴衣だ。カノンの瞳と一緒の色。 綺麗に見えるよ。しかもうなじが何だか色っぽい、良い匂いするような……。 『何だか……たくさん着替えしたから、汗かいちゃいました……』 え?カノン?急に浴衣の帯を解いて何を……?え、あ、ちょっと……それ脱いだら、裸に……待って!見える!見えるよ!?見るぞ!!!……あ、腰巻き履いてたの?ちゃんとそこも女の子仕様なんだね……ってガッカリしてるわけじゃない!!……あ、でも乳首見えてる……かわいい色して、ちょっと触 「鬼八郎様!?鼻から血が出てますっ!」 「へ?」 鬼八郎は現実に戻ると、鼻から暖かいものがつーっと流れているのを感じた。 「わぁ!?て、手ぬぐい持ってくるっすー!」 鬼三は慌てて、部屋を飛び出していった。 「……バカが」 鬼一は呆れて、ため息しか出なかった。

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