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現代パロディー:バレンタインデー編

鬼八郎(きはちろう)「今日はバレンタインデー!めっちゃ楽しみだなぁ……って、もう23時57分じゃねぇか!!(※これを書いている時の時刻です)」 鬼一(きいち)「前々から書いておけばいいものを……ちゃんと予定を立てて書かないから、こうなる」 鬼三(きさ)「あ!もう0時になりましたよ!15日になったっす……」 鬼八郎「もう書かなくても良くね?本編と関係ない話だし」 鬼一「どうせ節分の時と同じ現代パロディーだろ?」 鬼三「芸がないっす!」 カノン「あっ!鬼八郎様、こんなところにいたんですね!バレンタインデーにチョコレートでお菓子を作る企画があるみたいですよ。僕、お菓子を作るの初めてで、とっても楽しみですっ!」 鬼八郎「よしっ、お前ら!!バレンタインデー楽しむぞー!」 鬼一「おい、さっきと言ってること180度違うぞ」 鬼八郎「カノンが楽しみにしてるのに、日にちが変わったくらいで、止める訳ねぇだろ!」 鬼一「お前な……、14日にするからいいんだろうが!」 鬼八郎「たった今、俺の中で時差が発生した。大丈夫だ、問題ない」 鬼三「そ、それじゃあ、番外編始まるっすよー!」 〈鬼八郎目線〉 今日は2月14日。 女子にとって、とても大切な日である。 チョコという武器を携えて、思いを寄せる相手に告白をするのだ。 ま、万年義理チョコ止まりの俺には関係のない日だけどなっ。 高校から帰ると宅配便を受け取るカノンがいた。 カノンとは交換留学のためアメリカから日本に来た超絶美少年留学生様だっ!皆のもの、よく覚えておけっ!! そして、その超絶美少年留学生様は、俺の家にホームステイしてくださっている……ありがたや、ありがたやぁ。 そして、その荷物は、どうやら向こうの国からのものらしい。 「カノン、何だそれ?」 「おかえりなさい!鬼八郎くん!今日はバレンタインデーだからって、家族がお菓子送ってくれたんだ!皆の分もあるみたい」 「へー!すげぇ、大きいな!」 段ボールを開けると、俺は絶句した。 大きな大きなハートのチョコレートケーキが鎮座ましましておられたからだ。 これ、何号のケーキだ?めちゃくちゃ大きいぞ? そして、そのケーキには「I LOVE CANON🖤」と白のチョコペンで書かれていた。 「美味しそうなケーキ!お兄ちゃん、すごい!」 お兄様でしたか……。 カノンのお兄様は、カノンにメッセージアプリを使って毎日300通のメッセージを送ってくるという、(お会いしたことがないので、推測だが)超がつくブラコンお兄様なのだ。 「鬼八郎くん!ママが作ったクッキーもあるよ!皆の分もあるから、後でケーキと一緒に食べようね」 カノンは天使のような可愛い顔で笑っていらっしゃるけど、多分ケーキは俺らが食べると何かダメな気がする。 「ただいまー」と鬼一が帰って来た。 あ、鬼一は俺らの兄貴で大学生。 鬼一は、今日の夕飯の買い物と別に、紙袋をどんと置いた。 何やら可愛らしいラッピングが見える。 「おい、鬼一、その紙袋……」 「あ?バレンタインデーのチョコ」 くっそおおおお! 俺なんて「鬼頭(きとう)は義理チョコな」ってチ◯ルチョコの詰め合わせだったんだぞ! しかも、本当に適当な袋に詰めましたみたいな感じで!! 「お前らにやるよ」 「は!?せっかくもらったのに!?」 「どうせ、全部義理だよ」 「本命は受け取ってねぇし」と言いながら、買ってきたものを冷蔵庫に入れる。 っていうか、本命もあったんかい! 「それより、何だ?そのでっけぇケーキは」 「お兄ちゃんがバレンタインデーだからって大きなケーキを送ってきてくれたんです」 「すげぇな、お前の兄さん」 愛が重いよな。 「ただいまー!チョコいっぱいもらったっす!!」 弟の鬼三が帰って来た。今は中学二年生だ。 鬼三は両手いっぱいにチョコを抱えている。 「おま……っ、何だそのチョコの量は!」 俺なんかチ◯ルチョコしか(以下略 「クラスの女子とー、部活の女子とー、先生とー……あ!あと、近所のおばちゃんとおばあちゃんからもらったっす!」 鬼三は人当たりがよくて、明るい性格だから、色んな人にもてる……羨ましいっ! 「何だお前、チ◯ルしかねぇじゃん」 鬼一に鼻で笑われる。クソムカつく! 「カノンも貰ったんじゃないのか?」 鬼一が聞くと、「頂きました!」とカノンが自分の鞄からたくさんのチョコを出した。 鬼一と変わらないくらいの量だ。 どれもこれも綺麗にラッピングされたり、高そうなチョコだったり……俺のチ◯ルと大違いだ。チ◯ル好きだけどな。 「バレンタインデーがこんなに日本で盛り上がってるとは知りませんでした。向こうでは男女関係なくプレゼントを送ったり、パーティーしたりするんです」 「へー!やっぱりチョコとか送ったりすんの?」 「チョコもあるけど、それ以外のお菓子もあげるよ。あと、少し大人になると好きな人にバラの花束を贈ったりとか……女の人から贈るより、男の人が贈る方が多いかな」 「す、すごいな……」 さすが、アメリカ……。 「あ!お菓子と一緒にお兄ちゃんから手紙も入ってる。皆さんの分もありますよ」 カノンの兄ちゃんから手紙かー。どんなこと書いてあるんだろ? カノンは小さな封筒に入ったメッセージカードを俺たち三人に渡す。 英語で書いてあるんかな?俺、英語2なんだよなぁ……。 「『キイチへ、いつもおいしいご飯をカノンに作ってくれてありがとう。アメリカに来たら、おいしい料理で歓迎する。これからもよろしくお願いします。』……カノンの兄さん、日本語上手だなぁ」 鬼一が感心しながら、手紙を読んだ。 どうやら日本語で書かれているらしい。 「俺のは……『キサへ、いつもカノンとたくさん遊んでくれてありがとう。アメリカに来たら、私たちの家にホームステイするといい。いつでも街を案内しよう。これからもカノンと仲良くしてあげてほしい』って書いてあるっす!アメリカ行ってみたいっすー!」 鬼三は嬉しかったようで、「アメリカー!」と叫び、万歳しながら喜んでいる。 どれどれ、俺のは…… 「『カノンに手を出したら、殺す』……って怖っ!!!」 何で俺だけ殺害予告っ!? 「……お前、何したんだ?」 鬼一が呆れながら聞いてくる。 知るか!俺が一番聞きたいわっ! 「ご、ごめんなさいっ!鬼八郎くん!普段、そんなことお兄ちゃん言わないんだけど……今度、『そんな事書いちゃダメ!』って、メッセージ送っておくからねっ」 カノンが俺の腕をそっと掴んで、謝ってくる。 カノンの可愛さに免じて、許しますよ。お兄様。 「でも、こんなにチョコレートもらって、なんだか申し訳ないなぁ……僕も何か作ろうかな」 カノンはもらったチョコを見つめながら、呟いた。 「じゃあ、作るか?」と鬼一が提案する。 「本当は、バレンタインデーのお返しの日でホワイトデーというものがあるんだが、カノンは日本のバレンタイン初めてだし、作ってみるか?」 「いいんですか?作ってみたいです!」 俺は思わず、フリフリのエプロンを着たカノンを想像した。 うむ、良い。 「俺も作るっ!」 「俺も作りたいっすー!」 「じゃあ大量生産できるものの方がいいな。チョコカップケーキにするか……。小麦粉や卵はあるけど、チョコはないから買ってこないとなぁ」 「あ!僕買ってきますっ」とカノンは手をあげる。 「じゃあ、俺も!!」と俺も手をあげた。 「お前のチ◯ルを溶かすって手もあるぞ」と鬼一がバカな提案をしてきたけど、無視だ、無視! チ◯ルに罪はない!それになけなしの義理チョコを誰が溶かすか! 鬼一と鬼三が家で準備している間に、チョコとラッピング用品を買いに、近くのスーパーへ行った。 「チョコ少なくなってるね」 「バレンタインデー当日だからな」 だいぶ少なくはなっていたが、何とか板チョコを買うことができた。 ラッピングもあまり種類はなかったが、カップと、ハートのイラストがプリントされた袋を何とかゲットすることができた。 それよりも、カノンがスーパーに行くと、おばちゃんたちがたくさん寄ってくるので大変だ。 「まぁ……!金髪の美少年よー!」なんて言って、試食やらなにやらたくさん持ってくる。 さらには普通の商品まで無料で渡そうとしてくるからビビる。 それでも、カノンは優しいから一人一人に声を掛けて、「今日はこれだけ友達と買いに来たので……試食した商品は、また買いに来ますね」と笑顔で答えていた。 やっぱり天使。 スーパーを出るときも、お客さんやパートのおばちゃん、さらには年配の店長まで出てきて、総出でお見送りされた。 何でも、たまに買い物にくるカノンの姿見たさにお客さんが集まり、その日の売り上げが良くなるらしい。 天使を越えて、もはや神様だな。 「いつも思うけど、日本のスーパーって、サービスが行き届いててすごいね!」 「サービス過剰だけどな……」 帰り道、そんなことを言いながら歩いていると、俺は一軒のお店を見つけ、ある商品が置いてあるのに気づいた。 「カノン、先帰ってて!俺、ちょっと買い忘れたものがあるから!」 そう言って、カノンを帰らせて、俺はその店に入った。 家につくと、既にカップケーキ作りが始まっており、台所から楽しげな声が聞こえる。 「ただいま!」 「あ、おかえりなさい!鬼八郎くん!今、チョコを湯煎して、卵を入れて、混ぜてたところだよ」 母さんの花柄エプロンに身を包んだカノンが俺の方を振り向いて教えてくれた。 『お帰りなさい、鬼八郎くん!ご飯にする?お風呂にする?……それとも、僕にする……?』 ヤバ、帰って来て三秒で新婚さん妄想してしまった……。 しかも、妄想の中のカノンは裸エプロンでした。反省。 「おい、変態野郎。てめぇは、カメラで調理の様子を撮れ」 鬼一には、何を想像していたのかバレたらしい。相変わらず勘の鋭い奴め! 「え、何で写真?」 「カノンが家族に写真を贈りたいんだと」 鬼一にデジカメを渡されたため、写真を撮る。 一生懸命、チョコを混ぜるカノン。 うん、可愛い。 小麦粉をふるって、鼻に小麦粉つけてるカノン。 うん、可愛い。 カップにちょっとずつ生地を入れていったけど、一つだけ入れすぎて、あわあわしてるカノン。 うん、可愛い。 オーブンの前で、じーっと生地が膨らむ様子を見ているカノン。 うん、可愛い。 出来上がったカップケーキを笑顔で見せてくれたカノン。 うん。かわい…… カノンの満面の笑みを撮ろうとシャッターを切ろうとしたが、ピピっという機械音とともに『メモリが足りません』と画面に表示される。 おいいいい!最後の満面の笑みは撮らせろよおおおお!!気合いでメモリ増やせよ、ばか野郎!!! くそ、どれか消さなきゃ……と、仕方なく鬼三がカノンに重なった写真を消して、もう一度カノンとカップケーキを撮らせてもらった。 そして、相変わらずカノンにピントが全部合ってしまっているけど、カノンが可愛いのが悪いっ!いや、悪くないけどっ。 「いつもお世話になっている、三人にあげるね」とカノンは可愛くラッピングされたカップケーキを手渡す。 「鬼八郎くんのは、僕が生地を少し入れすぎちゃったから、大きくなっちゃった……少し見た目が悪いかも……ごめんね?」 「全っ然!大丈夫!むしろ飾るわ!!」 「え、腐っちゃうよ?」 カノンのママとお兄様からもらったお菓子とカップケーキを囲んだ。 チョコばかりで、正直苦しかったが、なかなか楽しいバレンタインとなった。 夜。 カノンの部屋のドアをノックする。 「はーい」とカノンはドアを開け、俺を迎えいれてくれた。 「どうしたの?鬼八郎くん」 「あの……これを渡したくて」 俺は透明なケースに入った一輪のバラを差し出す。 「わぁ……綺麗っ!」 「これ、プリザーブドフラワーって言って、半永久的に枯れない花らしい……。あ、深い意味はないんだ!!あの、いつも、仲良くしてくれてるし、チョコだと芸がないかな~って思って、世話もしなくていいしっ」 俺は何だか気恥ずかしくなって、早口でごちゃごちゃ言っていると、そっとカノンが花を差し出した俺の手を包んだ。 小さくて、暖かい。 「ありがとう。すごく嬉しいよ!花なんて、僕、初めてもらちゃった」 ふわりと笑うカノンは、どんな花よりも綺麗で可愛い。 この花みたいに、ずっと一緒にいられたらいいのにな……。 終

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