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いい夢を見るおまじない
〈カノン目線〉
夜伽の相手は、ダメ。
そう鬼八郎 様に言われて、僕はガッカリした。
夜伽がどういうものかは知らないけれど、お役に立てることはしたかった。
例え、痛いことや辛いことでも。
鬼八郎様が望めば、僕は受け入れるつもり。
だって、鬼八郎様は優しく僕を受け入れてくれたから。
肩や腰を揉んでいると、スースーという寝息が聞こえてきた。
覗き込むと、鬼八郎様はぐっすり休まれていた。
その穏やかな寝顔が、……とても可愛らしいなと思ってしまった。
子供のような無邪気な寝顔。
いつも、僕の方が先に寝て、鬼八郎様が早く起きてる。
寝顔をまじまじ見ることなんてなかったなぁ。
「鬼八郎様……おやすみなさい」
僕は、鬼八郎様のほっぺにキスしてみた。
お母様が、僕によくしてくれた。
『いい夢を見るおまじない』
戦争が起きてからも、よくお母様は僕にしてくれた。
「お母様……」
じわりと目が潤むのを感じる。
泣いちゃダメ。
僕はすぐに泣いちゃうから、鬼八郎様が心配する。
それに、鬼八郎様も言ってた。
『カノンが笑顔でいてくれたら、それでいい』
笑顔でいよう。
鬼八郎様が安心するように。
「んん……」と鬼八郎様が唸ると、太くて逞しい腕が僕を捕らえた。
ぎゅっと抱き締められる。
この腕に何度抱き締められただろう。
安心する……。
大好きな、腕。
僕、帰ることができるその時まで、あなたの傍にいます。
だから、どうかあなたも笑顔でいて……
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