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あとちょっとで
朝、チュンチュンと雀の鳴き声で目が覚めた。
鬼八郎 は、暖かいものを抱いて寝ていることに気がついた。
腕の中には、すやすやと寝息をたてている天使がいた。
「……っカ、カノン?!何で……?」
何で、俺の腕の中で寝ているんだろう……?と鬼八郎は寝起きの頭で考えた。
(確か、腰を揉んでもらって……気持ちよくなって……寝落ちしたんだっけ?)
鬼八郎は体を起こし、すやすや眠るカノンを見下ろす。
穏やかな寝顔に癒される。
どうしてこんなに惹かれるのだろう。
こんな感情持ったことがなかった。
鬼八郎は、カノンの頬をつついてみる。
「んぅ~」とカノンはくすぐったかったのか、首をふる。
桃色の唇を触ってみる。
ふにふにと柔らかく、ぽってりとしている。
この唇には何が詰まっているんだろうと鬼八郎は不思議に思う。
まるで自分のものと違うからだ。
「そんなに……可愛い顔で寝てると、悪戯するぞ……?」
鬼八郎はそんなことを呟きながら、頭を撫でる。
そうだ……!いつもこういうところを鬼一 に目撃されて、ドン引きされるんだったと鬼八郎は思い、布団を抜け出して、障子を開ける。
廊下は静かで、しんとしている。
まだ朝早いためか、誰も起きてないらしい。
(よし……)
鬼八郎は、そっと障子を閉めて、布団に戻る。
相変わらず、カノンは健やかな寝顔をしている。
カノンの頬を触りながら、唇を寄せてみる。
パチリ。
青と紫の瞳がぱっちりと開き、鬼八郎の目が合った。
あまりの至近距離にカノンも固まっている。
「あ、えっと……おはよう」
鬼八郎は言い訳もできず、朝の挨拶をした。
カノンは目をパチパチとさせて、「おはようございます……」と挨拶を返してくれた。
「これは……その……っ」
鬼八郎が慌てふためいていると、カノンは少し頬を赤らめた。
「少し、お顔が近いような、気がします……」
「……っ!ごめんっ!!」
鬼八郎はカノンの言葉を聞いて、すぐに飛び退いた。
カノンはゆっくり体を起こした。
相変わらず、浴衣が着崩れており、右肩が露になっている。そして、白い太ももも、ばっちり見えており、浴衣を直しながら、両足をもじもじとさせている。
「昨日はびっくりしました……お休みになられていたと思ったから……急にあんなこと……」
「え……!?」
(『あんなこと』って何だ!?……俺、寝ぼけて何かやっちゃった!?)
鬼八郎が真っ青になっていると、カノンは赤くなった頬を両手で包みながら、
「急に抱き締めてこられたので……ドキドキしましたっ」
「抱き締め……て?」
だから、抱いて寝てたんだなと鬼八郎は納得したと同時に安心した。
寝ぼけて、カノンに乱暴なことでもしたのかと思ったからだ。
「そ、そっか……ごめんな、カノン」
「いえ……暖かくて、気持ちよかったです」
照れながらも笑うカノンに鬼八郎は心の中で(かわいーー!)と悶絶する。
今すぐにでも抱き締めたいという衝動に駆られながらも、そこはグッと抑えた。
今のままだと、カノンに何かしてしまいそうだったので、話題を変える。
鬼八郎は頭を巡らせ、話題を探す。
「カノン……今日も良い天気だなっ!」
苦し紛れに天気の話題を振ってみる。
……天気の話など、話題がないときの話題である。
「本当ですねっ!お山も綺麗に見えます。あの山は火山だと鬼三 くんから聞きました」
「そうなんだよ!もうすぐ祭りもあるからなぁ……。あ、カノン!祭り一緒に回ろう!!」
「え!?いいんですか!?」
カノンはぱぁぁと表情が明るくなって喜んだ。
そういえば、カノンがここに来てから町を案内してなかったなぁと鬼八郎は気づいた。
「カノン、今日はさ、俺、仕事ないんだ。その……一緒に、町を見に行かないか?」
思いがけないお誘いに一瞬、目を真ん丸にさせて、びっくりしていたが、カノンはすぐに首を縦に振った。
「行きたいですっ!」
「じゃ、決まりな。朝飯食ったら、出掛けよう!」
初めて、カノンと町に出ることに、鬼八郎は胸の高鳴りを抑えられなかった。
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