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二人でお出かけ

「今日出かける?」 カノンの部屋で朝食を取っていた時、鬼八郎(きはちろう)鬼一(きいち)に今日出かけることを伝えた。 「町へか?」 「もちろん!」 「人間だってバレると襲われるんじゃないのか?」 「そんな奴いたら、マジぶっ飛ばす……!!」 カノンを見ると、「襲われちゃうの?」と言わんばかりに瞳をゆらゆらさせながら、鬼八郎のことを見ている。 鬼八郎は、その切ない顔にキュンとしながらも、「大丈夫っ!」とカノンの肩に手を置いた。 「カノンは俺が絶対に守るから!!」 「はい……っ」 カノンは目尻に少しだけ涙出ていたけど、すぐに笑顔になって頷いた。 「俺は神無(かんな)さんのところに手伝いにいくから、ついていけないぞ」 神無とは、鬼八郎の父、鬼三衛門(きざえもん)の側近であり、学校の校長も務めている。 現在は、あまり教壇には立たないが、鬼八郎と鬼一と鬼三(きさ)が子供の頃は、神無から学問や武芸を教えてもらった。 鬼一は神無が育ての親であるため、時々学校の手が足らない時に臨時教師として手伝いに行っている。 「別に、お前についてきてもらわなくても大丈夫だ!」 「いつも面倒事に巻き込まれてるだろ」 「いつもじゃないですぅ~、時々ですぅ~」 「巻き込まれてるって自覚はあるんだな。……ちなみに今日は鬼三も夏鬼(なつき)の店の手伝いに駆り出されてるからな」 夏鬼とは、鬼三の姉で、呉服屋を営んでいる。 「え~?鬼三、商売できるのか?」 「今日は棚卸しをするらしい。鬼三は力だけはあるからな」 「今ごろは、夏鬼の奴隷か……」 鬼八郎は、鬼三が思いっきりこき使われているところを想像する。 昔、店の手伝いに呼ばれたとき、とにかく働かせられたのを覚えている。 帰り道、鬼三と鬼八郎はくたくたになったのだ。 ちなみに鬼一は顔が良いので、客引きに使われていて、違う意味で疲れていた。 「とにかく、若がついていても、角がない人間が町をうろついていると目立つだろ」 鬼一は被衣(かづき)という桃色の薄絹をカノンの頭に被せる。 「女物だけど、顔も角がないのも隠れるし、これで我慢しろ」 「あ、ありがとうございます……っ」 桃色の絹を纏ったカノンは嬉しそうに笑った。 何だかんだいいながら、鬼一は面倒見がいいなと鬼八郎は思った。 出かける準備をした後、鬼ヶ城を出ようとすると、鬼八郎の父親である鬼三衛門が前からやって来た。 二人に気がつくと、ぶんぶんと腕を振って、やって来た。 「カノンちゃーん!」 2メートルの巨体が迫ってきたため、とりあえず鬼八郎はカノンを抱き上げて、突進してきた父親を避けた。 そのまま壁にぶち当たり、漆喰でできた壁はへこんだが、当の本人はけろっとしていた。 「いたのか、バカ息子」 「バカはてめぇだよ!カノンが潰れたからどうするつもりだ!!」 「潰れないように加減するもん!」 「するもん!じゃねぇーよ!!きもいわ!!」 顔を合わせると、喧嘩しているが、いつものことなので、周りの鬼は特に止めたりはしない。 むしろ、喧嘩するほどなんとやら……と思っている。 ただ、カノンだけは止まらない喧嘩にハラハラしていた。 「け、喧嘩しちゃ、ダメです……!」 カノンに止められて、やっと二人は喧嘩をやめた。 「カノンちゃん、どこかにお出かけかな?」 鬼三衛門はニコニコしながら、カノンに聞く。 「はい!鬼八郎様に町を案内してもらうんです」 「いいなぁ……ワシも行こうかな」 「来んな!」と、すかさず鬼八郎が突っ込む。 「あんたはこれから仕事だろ?」 と後ろから声が聞こえた。 振り返ると、側近の神無が立っていた。 「えー……カノンちゃんとお出かけの方が楽しそう……」 鬼三衛門が拗ねていると、神無ははぁ……とため息をついた。 「俺は大事な学校の仕事を脇において、あんたに同行するのに、あんたは遊びにいきたいと……そういうことか?」 ギロリとにらむ眼光は、鬼一人分、射殺しそうな程、鋭い。 さすがの鬼三衛門もその眼光の鋭さに「ひぃぃ……!」と恐れおののく。 「分かった……分かったから、その目やめて……怖いっ!」 「分かったらいいさ」 「カノンちゃん、ごめんよ……一緒に行けなくて……その代わり、お小遣いをあげよう」 鬼三衛門は懐から財布を取り出した。 (とんでもねぇ額のお金渡すんじゃないだろうな)と鬼八郎が見ていると、鬼三衛門はカノンの小さな掌にどんと財布をそのまま置いた。 「……って財布まるごとかよ!!」 鬼八郎は思わず、ツッコミを入れる。 「俺でもそんな渡され方されたことないわ!!」と畳み掛ける。 「こんなお金……申し訳ないです……っ」 カノンはあまりの豪気なおこづかいに戸惑ってしまっている。 「いいんだよ~!せっかくだから、楽しんでおいで!……おい、バカ息子、カノンちゃんをしっかり守れよ」 「言われなくても、守るよ!」 鬼八郎はカノンの肩をぐっと抱きながら、べーっと舌を出した。 「……本っ当に可愛くない、バカ息子だな!」と悪態付く鬼三衛門だが、カノンに対してはデレデレな顔で、「カノンちゃん、気を付けてね~」と手を振った。 「行ってきまーす!」とカノンも手を振り、二人はさっそく町へ繰り出した。

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