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鬼ヶ城城下町、一・二丁目

鬼八郎(きはちろう)目線〉 城を出ると、まずは一丁目に向かう。 一丁目は主に八百屋とか魚屋とか、住民が日常生活で必要な食べ物や日用品を売っている。 「カノン!ここはな、新鮮な野菜とか魚とかたくさん売ってるんだぞ!」 「すごく賑わってますね……!」 人の多さにカノンはびっくりしてしまっている。 一丁目は一番活気があるかもしれない。 なにせ、肝っ玉母ちゃんたちが集う戦場だからな……! 「カノン、俺から離れるなよ」 俺がカノンにそう言うと、カノンは「はいっ!」と返事をして、ぎゅっと俺の腕に抱きついた。 可愛い……っ!もういっそ、抱っこして移動したい!! ……カノンは絶対遠慮するだろうけど。 突如、カランカランという小さな鐘の音が聞こえる。 俺は、はっとした。 時間は10時。やばい……っ!! 「カノン、ちょっと離れるぞっ!!」 「え??」とカノンは何が起こるのかわからないといった顔をしてたけど、今はそれどころじゃない。 どどどどど……とどこからか地響きが聞こえる。 「キャベツ10銭!なすびは5銭!お買い得だよーー!!お一人様一袋までーー!!」 八百屋の親父が大声で叫ぶ。 鬼の形相をした(いや、実際鬼なんだけど)奥さまたちが、獣のように八百屋に突っ込んできた。 ま、まさに戦場……!! どこよりも安いものを手に入れるために、奥さまたちは、骨肉の争いをしているのだ……!! カノンはあまりの迫力に、あわあわと恐れおののいている。 「き、鬼八郎様……、これは一体何の騒ぎなのですか??」 「カノン……これはな、家庭という城と、家計という財政を守る女たちの戦場……タイムサービスだ!!」 「タ、タイム……サービス!?……って何ですか??!!」 「タイムサービスとは、時間制限をかけて、特定の商品を安く販売することを指す……。奥さま達は、どこよりも安く、そして多く野菜を手に入れるために、この瞬間、戦士となって戦うのだ……!!」 「す、すごい……っ!!」 一時間後、あっという間に野菜は売り切れた。 戦利品を持ち帰った戦士(奥さま)たちは、次なる獲物を獲得するため、去っていった。 「俺、このタイムサービス見るの好きなんだよな。ぜひ、カノンにも見てほしくてさ」 「すごい戦いでした!」 カノンは興奮ぎみにはしゃいでいた。 そして、「一丁目に来たら、タイムサービスを見る……」とゴニョゴニョと繰り返し呟いていた。 タイムサービス観戦を終えると、次は二丁目に向かう。 ここは、お菓子屋さんとか本屋さんとか雑貨屋さんが多い。 「わぁ……、ここも賑わってますね」 「ここも人気だな。雑貨とか女子が好きそうな物も多いし……あっ、そういえば、ここらへんは……」 俺が言いかけると、鬼が一人、とある店から転がり出てくる。 「も、もう持てないっす……!姉ちゃん、勘弁してほしいっす!!」 「あんた、力持ちってことしか自慢できないのに、何言ってんの?ほら、立ちなさい」 「鬼っす!!鬼畜っす!!」 「鬼だもーん」 鬼三(きさ)と、その姉の夏鬼(なつき)が店の前で喧嘩している。 おおかた、奴隷と化した鬼三を調教している最中なのだろう。……恐ろしい。 「鬼三くん、大丈夫っ?」 優しいカノンは鬼三のところに駆け寄った。 「カノンさん……っ!若ぁ……!」 可哀想に、大粒の涙を流しながら、カノンと俺に近寄ってくる。おい、カノンに鼻水つけんなよ。 「あら!カノンと鬼八郎じゃない!手伝いに来てくれたの?」 夏鬼は嬉しそうな笑顔で俺らに話しかける。 笑顔はとびきりの美人なのに、普段は小うるさくて、時々おっかねぇ。……まぁ、いい幼馴染みなんだけどな。 「んなわけねぇだろ!カノンに町を案内してるんだよ!!」 絶対手伝わないっ!いつも体動かしてる俺でも次の日筋肉痛になるくらいの仕事量を振ってくるから、絶対絶対手伝わない!! 「えー……あ!そうだ!カノン~、お願いがあるんだけど~」 夏鬼は猫なで声で、カノンにお願いしている。 まさか…… 「カノンに棚卸しとかさせねぇからな!」 カノンの白くて細い、か弱い腕にあんな反物ばっかり持たせられないからな! カノンが筋肉痛にでもなったら、どうする!! ……俺が一日中付き添って、全力で甘やかすわ!! 「あんな仕事、体力バカ二人組くらいにしか頼まないわよ!!カノンにしかできないことを頼むのよ」 カノンにしかできないことぉ~? っていうか、体力バカ二人組って、俺と鬼三のことじゃねぇだろうな。 「あんたも喜んで、一石二鳥よ?」 「はぁ?」 俺も喜ぶってどういうことだ? 「あの、僕、手伝いたいですっ」 カノンは俺の腕をぎゅっと掴む。 「夏鬼さんは、僕に綺麗な着物をくれたし、お化粧もしてくれて……僕がお手伝いできることはしたいんですっ!」 なんて良い子なんだ! こんな鬼畜な女の姿を見ても、手伝いたいなんて……カノンをこんな良い子に育ててくれてありがとうございます!お父様、お母様!! 「カノン……、なんて良い子なの!さ、お店の中に入りましょうね♪」 夏鬼はルンルンでカノンを店に招き入れた。 カノンに何をさせるつもりなんだ?

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