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ここは地獄の四丁目
〈カノン目線〉
言っちゃった……。
『そう見えたら、嬉しいです』
って言っちゃった……!
女の子たちと別れて、僕は何となく恥ずかしくて、俯いていた。
どうして、あんなこと言っちゃったんだろ。
鬼八郎 様、僕が変なこと言っちゃったから、怒ってるかな……。
普通に考えて、嫌……だよね?
人間に、しかも男にそんなこと言われて……。
鬼八郎様はいつも僕のことを「大切だ」って言って、守ってくれる。
素敵な指輪だってくれた。
だから、嫌われてはいない、はず。
でも、調子に乗って、あんなこと言っちゃって……、僕、なんか恥ずかしいな。
「……ノンっ、カノンっ!!」
鬼八郎様が僕を呼んでいた。
ぼーっとしてたから、気づかなかった!
「あ、ごめんなさい……っ」
「もうすぐ、四丁目に着くぞ」
「え、三丁目じゃなくて?」
鬼八郎様は頭をかいて、ちょっと困った顔をした。
何か悪いこと言っちゃったかな。
「三丁目はちょっと離れたところにあるし、何もないから」
鬼八郎様は、そう言いきった。
少しだけ、壁を感じたのは、気のせい?
「そうなんですか……」
それっきり、何も話してくれなくなった鬼八郎様。
隣で日傘をさしたまま、僕のペースに合わせてくれてる。
嬉しいけど、何も話してくれないのは……ちょっと寂しいです。
「あのさ、カノン」
「はい」
鬼八郎様を見上げると、少し顔が赤くなっていた。
「俺も、そう思う」
「え……」
「『そう見えたら、嬉しい』って、……思ってる」
少し照れたように笑った顔が、とても輝いて見えた。
初めて、鬼八郎様の笑顔がかわいいって思ってしまった。
四丁目に着くと、二丁目とは少し雰囲気が違う。
どちらかというと、歩いている人の年齢層が高めで、売っているものもお酒などが多そう。
大人な町なのかな……。
「カノン、喉乾いてないか?」
そういえば、ずっと歩き通しだった。
「少しだけ……」
「近くに果物を絞って作ったジュース売ってるところがあるんだ。買ってくるから、カノンはそこで待ってろよ」
鬼八郎様はそう言って、お店のある方へ走っていった。
僕は空き家の壁にもたれて待った。
鬼八郎様は優しい。
町の人も鬼八郎様に話しかけたり、挨拶したり……本当に慕われてるんだなぁっていうのが分かるし、何よりさっきの、
『そう見えたら、嬉しいって……思ってる』
あの言葉が本当に嬉しかった。
もしかしなくとも、僕は鬼八郎様のこと……。
「ねぇ、君一人?」
考え事をしていたら、いつの間にか、三人組組の男に囲まれていた。
ニコニコ……というより、ニヤニヤしてる感じが、何だか怖い……。
「えっと……」
僕が言い淀んでいると、三人は構わず、僕に絡んでくる。
「一人だったら、一緒にどっか遊びにいこうよ!」
「っていうか、めっちゃ可愛くね?」
「うわ、マジで可愛いじゃん!」
うつむいてる僕を覗き込むように顔を見てくる。
どうしよう……。
「あ、あの、僕、待ってる人がいるので……遊びには、いけないです……ごめんなさい……!」
僕は必死で伝えたけど、全然効果がなかった。
むしろ、僕の被っている薄絹を取ろうとしてきた。
「もっと、よく顔を見せてよ」
「だ、だめですっ!」
「『だめです!』だって、かーわいい」
もし、これを取られちゃったら、人間だってバレちゃう。
また、鬼八郎様に迷惑かけてしまう……。
どうしよう……誰か助けて……。
ぎゅっと目をつぶっていると、ドカッ!と隣から激しい音が響いた。
「お前ら、俺のツレに何してんのぉ?」
鬼八郎様は両手にジュースを持ちながら、空き家の壁を片足で蹴りつけた状態で立っていた。
顔は笑っているようにも見えるけど、額には血管が浮き出ているし、引き上がった口元はヒクヒクしている。
すごく、怒ってるみたい……。
壁は漆喰でできており、堅いはずなのだが、鬼八郎様が足をどけると、パラパラと少し崩れた。
その様子に三人組は、冷や汗を流しており、蛇に睨まれた蛙のように小さくなっている。
「いや、俺たち……この子が困ってそうだったから……声かけただけで……」
「別に、変なことしようとした訳じゃなくって……」
「そうそう!」
三人組は鬼八郎様との距離を取りながら、後ろにジリジリと下がっていく。
「カノンは俺を待ってただけだからさぁ……さっさと向こう行けや……」
相変わらず、鬼八郎様はニコニコしているけど、すごい威圧感で三人組に迫った。
三人組は「ひぃぃ!!」と悲鳴をあげながら、走って逃げていった。
「カノン、大丈夫か!?」
「はい……!大丈夫ですっ」
「良かったぁ……ごめんな、遅くなって」
「いえ……鬼八郎様が助けに来てくれて、嬉しかったです」
いつもいつも、鬼八郎様は僕を助けてくれる。
僕の救世主様だ。
鬼八郎様は持っていたジュースを僕に差し出した。
「カノン、どの果物が好きか迷っちゃって、時間かかったんだ」
「ありがとうございますっ」
ごくりと飲んでみると、桃の味がした。
甘くて、飲みやすい味。
「美味しいですっ!」
「良かった!カノンは桃、好きそうだなって思ったから」
鬼八郎様は少し笑いながら、自分のジュースも飲んだ。
僕のために選んでくれたジュースだもん。
僕はどんなものでも嬉しい。
鬼八郎様、大好き。
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