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丁か半か!

「ねぇ、あなた、買われたって言ってたわよね?ってことは、鬼八郎(きはちろう)様の奴隷ってこと?」 お花はカノンを見下しながら、聞く。 いかにも「奴隷に決まっている」というような言い方である。 「カノンは奴隷じゃないっ!」 鬼八郎は大声で言い切った。 「じゃあ、何なんですか?」 「……それは」 鬼八郎は迷った。 『帰るまで、傍にいてほしい』と言った。 けれど、恋人になってくれとはいっていない。 友達……とも違う。 この関係に合う言葉が見つからない。 迷いながらも鬼八郎は言葉を続けた。 「カノンは、大事な大事な大事な……存在なんだ」 この関係に名前なんてない。 カノンは心配そうに鬼八郎を見上げていたが、鬼八郎と目が合うとにこりと笑った。 「ふぅーん……まぁ、良いですわ。それより、せっかく四丁目に来たんですもの。二人とも遊んでいきなさいな」 「遊ぶ?」とカノンはこてんと首をかしげた。 「カノン、ここはな、賭け事の店が多い場所で、お花はここで一番大きい賭場の主人なんだ。……ちなみに男だ」 「え!?男の方なのですか!?こんなに綺麗な方がいるのですね!」 カノンのキラキラとした純粋な瞳に、お花は「……ほ、褒めたって何にも出ないんだからっ」とぷいっとそっぽを向いたが、満更でもなさそうだ。 「とにかく、私のお店に遊びに来てくださいな。賭場の作法、教えて差し上げますわ」 お花は怪しくにやりと笑った。 四丁目の奥、大きな門がそびえ立ち、その両側には大きな鬼が立っている。 「お前たち、門を開けなさい」 鬼は「はい」と大きな門を開けた。 『一攫千金』と書かれた看板の下をくぐり、中に入ると、柄の悪そうな鬼たちが何人も座り、賭け事に興じている。 カノンは怖いのかビクビクしながら、俺の腕にしがみついている。 「さ、奥へ」 お花は、奥の屏風がたてられた場所に案内するとその屏風の前に座った。 「カノンさん、あなた賭け事はしたことある?」 「いえ……したことないです」 「わっちと、一戦交えてみませんか?」 「一戦ですか?」 「丁半勝負しましょう」 「ちょう、はん?」 カノンは首をかしげながら、鬼八郎を見上げる。 「お花、カノンは丁半なんてしたことないし、金ももってない。こんなことしたって、お前の稼ぎにはならないぞ」 鬼八郎はお花との賭け事を止めようとするも、お花はクスクスと口元を着物で隠しながら笑いながら、「お金なんて、求めてませんわ」と言った。 「賭けの対象は、鬼八郎様。あなた様です」 「は?俺?」 「カノンさん、あなたが勝ったら、鬼八郎様との関係に口は出しません。でも、わっちが勝ったら……」 お花は鬼八郎と目線を合わせる。 その視線に鬼八郎の背筋に何かが走った。 「鬼八郎様を、私にください」 「ちょ……っ!俺は物じゃねぇから!」 「どうします?辞退してもいいんですよ?その代わり、わっちの不戦勝になりますけど」 どちらにしても、カノンが勝たなければ不利になる。 鬼八郎は立ち上がり、無理矢理にでも勝負を止めようとした、その時、カノンは「分かりました」と言った。 「その勝負、お受けしますっ」 「そうこなくっちゃ♪」 「カ、カノン~……大丈夫なのか?」 「その、ちょうはんの遊び方が分からないのですが、説明だけお願いします……」 「もちろんです」 丁半とは、サイコロ2つ使った賭け事で、ツボと呼ばれる(ざる)のような茶碗にサイコロを2つ入れて、振る。 出た目の和が、偶数(丁)か奇数(半)かを予想し、賭けをする。 「ちなみに進行役を中盆(なかぼん)、ツボを振るのをツボ振りと言うんですけど、今回は一対一の賭けですので、わっちが中盆もツボ振りも兼任しますわ」 「はいっ」 カノンは赤い敷物を挟んで、お花と対峙した。 「それでは、勝負!」 お花はツボにサイコロを入れた。

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