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第3話

それはもう一年も前の事。 放課後、生物科学室で、趣味で飼育しているクリオネの水を陽介が換えている時だった。 「クリオネってさ、可愛いけど肉食なんですよね?」 「よく知ってんな。しかも、食べ方が意外とグロいんだぜ」 「何か、トウモロコシみたいな名前の触手出すんでしたっけ?」 「トウモロコシってなんだよ。バッカンコーンな」 「そうそう、それそれ」 「っと!あー…」 床に敷かれたケーブルに引っ掛かって体勢を崩すと、水槽に入れようとした水が大量に零れた。白衣とズボンにかかり、股間部分から左足の先まで濡れてしまった。グレーのズボンのため、濡れたところが良く分かり、漏らしたみたいで陽介は眉をしかめた。 「弥市。その辺にある雑巾取ってくれ」 「はーい」と雑巾を差し出された。手に取るものの樹の手が離れない。相手へ訝しげな視線を送るが、樹はにっこりと笑っていた。 「なんだ?離せよ」 「先生さ、先週の土曜日に新宿に居ませんでした?」 「……は?」 突然の質問に、陽介は瞬きを繰り返した。そうして、思い至った考えに瞬間、青ざめた。 その姿を満足げに見ながら雑巾から手を離し、樹はブレザーの胸ポケットからスマホを取り出した。そして、1枚の写真を陽介へ見せた。 それは、陽介がスーツ姿の男と親しげにラブホテルへ入る姿だった。 「先生。これ、バラされたくなかったら、俺とも付き合って下さいよ?」 「…、…弥市…お前、自分が何言ってるか、分かってんのか?」 「分かってますよ。…先生、それさ、パンツまで濡れたでしょ?準備室で着替えましょう?手伝いますよ」 「……」 手を差し出される。陽介は睨むように樹を見ながら、暫く悩んだ。しかし、大きな溜め息を吐くと、差し出された手をパシンッと軽く叩き落とした。 「っ、先生、俺、本当に言っちゃうよ?」 「回りくどい言い方してんじゃねぇよ。ヤリてぇならそう言え」 ぶっきらぼうに言いながら、相手を通り越して生物準備室の前へ行く。扉に手をかけて、樹の方へ振り向いた。 「ヤんねぇのか?」 「…なんだ、意外とあっさり肯定するんですね」 樹が傍に来ると扉を開き、二人して準備室へ入っていった。 そうして、そのままなし崩しに体の関係を持つこととなった。

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