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〈6〉永田家の食卓

 四人掛けのテーブルに、母と拙者はいつもの定位置――向かい合って座っている――八代は拙者の隣に座った。  一年のほとんどを出張で家を空けている父がいるときは母の隣に座るので、拙者の隣に誰かが座っているのはなんだか不思議な感じがする。 「八代君、嫌いな食べ物とかあるの?」 「いえ、特にないです」 「まあ、えらいわね~! 隆星ちゃんは小さい頃から偏食家で、ごはん作るのがすっごく大変だったのよ」 「今はなんでも食べてるでござろう! それと母上、人前でその呼び方はさすがに恥ずかしいのでやめてくれ」  ただでさえキラキラした自分の名前が嫌いなのに、話のネタにされるたびに連呼されるのは苦痛すぎるでござる! 「そういえばそうね、もう高校二年生だものね」 「俺は気にしないですよ~」 「気にするのは拙者だっつーの」  夕食は普段より豪華な肉料理で、母と八代は初対面とは思えないほど親しげに話していた。姉が二人もいるという八代は、きっと女の機嫌を取りながら話すのが得意なのだろう。  雨宮氏とは同族だな。というか、弟属性とかいうやつ。 「それにしても、隆星ちゃ……隆星にこんなかっこいい仲良しな先輩がいたなんて本当にびっくりだわ! どうやって仲良くなったの? あ、もしかして八代君って前に隆星と遊びに行った? オシャレなお洋服を着て帰ってきた日があったわよね、あれって八代君が選んだんじゃない!?」 「母上、質問が多いでござるよ……」  というか、呼び方も『ちゃん』が取れただけで別に変わり映えしねぇな。  仕方ないか……。 「よく分かりましたね。でも俺と永田君は仲良しっていうか、俺が一方的に永田君に憧れているだけなんです」 「えっ、八代君の方が隆星に憧れているの? 逆じゃなくて?」 「はい」 「まあ……そうなの……隆星も変わった子だけど、貴方も大概ね……」 「あはは」 「母上、それは拙者にも八代にも失礼だぞ……」  八代が変わった奴というのは否定しないがな。  変わってる奴じゃなければ、千歳シンジから拙者を好きになるなんて、絶対にありえないでござるからな。 「永田君の友達も変わってる子ばっかりだよね」 「まあ、そうだな。あいつら全員ガチの変態でござるからな」 「隆星ちゃん、八代君の他にもお友達がいるの!?」 「あ、あたりまえでござろう!」  そこ驚くところか!? 拙者、雨宮氏たちの他にも複数名のオタク仲間がいるというのに!  まあ友達を家に連れてきたことはないし、話も一切しないから、いないと思われていても仕方がないといえば仕方ないでござるが……。 「永田君には男子の友達も女子の友達もいますよ。いつも部活で楽しそうにおしゃべりしてます」 「そうなの!? それは本当にびっくりだわ……」 「こっちもびっくりでござる。拙者、どんだけ学校でボッチだと思われてたでござるか」 「だって隆星ちゃん、ママにもパパにも学校の話って全然してくれないから~!」 「思春期の男子は普通そんなもんでござろう!」 「隆星ちゃんは普通じゃないでしょ!」 「拙者が普通じゃないのは口調だけでござる!」 「そういえば、永田君ってどうしてござる口調なの?」  八代がなんとなくつぶやいた一言は、拙者と母の言い争いを止めるには十分な威力を放った。

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