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第8話 律による卯月の恋愛事情
【律視点】
あ、どうもこんにちは。私はりっちゃんこと池田律 です。二つ上の姉の影響で、腐女子歴は8年くらいです。
ストレートのセミロングヘアが特徴で、スカート丈は標準。得意科目は国語と日本史と音楽で、数学と英語と化学が苦手……そんなどこにでもいる、ごくふつうの一般的な女子高生です。
今はうっちゃんがフリーズしてるので、代わりに私が進行しますね。
おととい、親友のうっちゃんが化学の南條先生に呼び出しをくらいました。南條先生は、うっちゃんの好きな人です。本人は好きって気付いてないけど。
昼休みに呼び出されたうっちゃんは、そのまま帰りのホームルームまで帰ってきませんでした。そして次の日――昨日は朝から熱を出したらしく、学校も休みでした。
いったい化学準備室で何があったのでしょうか……!
朝からうっちゃんを小一時間ほど問い詰めようと思いましたが、うっちゃんが自分で口を滑らせたので事情は分かりました。
なんということでしょう!まさか南條先生もうっちゃんのことが好きだったなんて!
ここで、うっちゃんの今までの恋愛事情について親友のわたしから少し説明したいと思います。これは予想ですけど、うっちゃんは自分のモノローグで初恋もまだ、とか言ってませんでした?
でも中学から友達だった私に言わせれば、うっちゃんが初恋もまだ、なんてことはないのです!
うっちゃんは頑なに自分は同性愛者じゃないと言いますが、ぶっちゃけ違います。ホモです。もう一度言います、ゲイです。
何故こうもはっきりと断言できるのかというと、彼の恋愛対象は女子じゃないから。
うっちゃんは育った環境がちょっと特殊だったせいか、彼の中で女性は当たりのきつい『当て馬系女子』(命名:うっちゃん)と、自分の仲間である私たち『腐女子』しか存在しません。つまり、恋愛対象となる『普通の女子』が存在しないのです。
……となると、うっちゃんの恋愛対象は必然的に男しかいないわけで。
だからうっちゃんは潔いほどに自分は同性愛者であると公言しているんですよね。本人はそのことにずーっと気付いていませんが。
うっちゃんは本当に、勉強のできるバカで可愛い子です。うっちゃんのお姉さん達がうっちゃんを猫可愛がりする気持ち、私にはすごくわかります。本人は虐げられてるって言うけど。
そんなうっちゃんですが、今まで何度か恋をしてきました。勿論相手は全員男子です。でも、うっちゃんは何故か好きになる相手を全員『攻めキャラ』にしてしまうんです。そして好きな相手とお似合いの受けくさい男子を見つけては、その二人を妄想の中でくっつけては満足する、という行為を繰り返してきました。
私も最初はそんなうっちゃんを見て『毎日楽しそうだなぁ~』くらいにしか思っていませんでした。が、一緒に居る内にだんだんとその根底にあるうっちゃんの真意に気付いてきました。
うっちゃんが、攻めに恋をしているということに。
だってうっちゃんがお気に入りの攻めを見てるときの顔は、恋してる受けの顔そのものだから……。
でも私が『ホントはうっちゃんが攻め君のこと好きなんでしょう?』って聞いても、うっちゃんは『それはないよ!だって攻め君、あんなに可愛い受け君とお似合いなんだから。早くくっつけばいいのにな、あの二人』なんて、本気で返してくるのです。
うっちゃんは自分に自信が無いのでしょうか?まぁ、現実では男が男を好きになるなんて、結構ゆゆしき事態ですからね。BLはファンタジーです。それはうっちゃんも分かってる。だからこそ楽しいんですよね。
でも、告白もせずに好きな相手を自分以外の誰かとくっつけて楽しむなんて、うっちゃんの恋は悲しすぎます……。
そしてうっちゃんの恋の終わりはいつも唐突です。お気に入りの攻めに彼女ができたら、そこで終了。少し残念そうな顔をして、『あーあ、また攻め探さなくっちゃな』って言うんです。はい、ここが重要なのです。
『また攻め探さなくっちゃ』
はぁぁぁぁぁぁ!!?!?
相手が二次元のキャラクターならば、もしくは本当にただの『攻めキャラ』として見ているならば、彼女がいようが結婚してようがおかまいなしに妄想は持続していくものです!そのキャラクターへの愛が続く限り!彼女や嫁なんて全員腐女子に変換する、それが腐女子の妄想力ってもんでしょう!?
ハァ、ハァ……すみません、少し取り乱しちゃいました。
でもうっちゃんにはそれができないのです。勿論二次元のキャラにはできるけど、現実のうっちゃんの好きな『攻め』には同じことが出来ない。だって、本当の恋だから。
いつも辛い顔をして、好きな人のことを諦めるうっちゃん。私は、うっちゃんには心から幸せになってもらいたいのです。本当に大事な友達だから。
高校に入って、またうっちゃんには新たなお気に入りの攻めができました。それが化学教諭の南條志信先生。
確かに見た目は文句なしのイケメンだけど、超無愛想だし、授業も難しくて何言ってんだかわかんないし、すぐ当ててくるから恐いし……正直、顔がいいだけで他に何がいいのか私にはさっぱり分かりません。
けど、うっちゃんはめっちゃくちゃ南條先生にハマってます。化学の授業は毎回楽しそうで、見てるこっちも楽しく……なりたいけどやっぱり化学大嫌いだから無理。
いつもと同じく、南條先生とクラスの男子(主に吉村くん)を掛け合わせては満足してるみたいだけど、南條先生を見つめる顔はやっぱり健気な受けそのものでしかない。
これで恋をしてないなんて、笑止千万!!
いつかけしかけてやろうと思っていたのですが、その矢先にこんなことが起きたんですよね。南條先生がゲイだったなんてびっくりだけど、異常に女子に対して冷たい(まとわりついてくる子に対して)ことを思えば納得です。
でも、それがまさかうっちゃんを好きだなんて腐女子の私もびっくりです。私は南條先生のこと、年上の儚げな美人に夢中になる年下攻めってイメージだったから。
きっとうっちゃんの恋する乙女光線にやられたんでしょうね。化学の成績も多分学年で一番だろうから可愛いのでしょう。
そんな南條先生の心情を想像して、初めて南條先生に対して萌え心が生まれました、わたし。ウフフ。
そんなわけで、二人は両想いなのです。あとはうっちゃんの自覚を促して、思いっきり背中を押すだけ!
きっとうっちゃんは、私に背後から討たれたとでも思ってるんでしょうけど……でも私は、大好きな親友のためなら鬼にでも裏切り者にでもなりますよ!決して自分が楽しいからってだけじゃないです!あいちんとかなやんにも報告しなきゃ!
以上、律でした。
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