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第12話 その距離、20センチ未満

でも、萌えてる場合じゃないぞ俺!! 「せ、先生!ちょっと待ってください!」 あ、やっとまともな声が出た!!南條先生の顔見てないからかな!?よし、この調子で言うぞ……!! 俺は俯いたままで興奮している南條先生をべりっと引っぺがすと、一気に捲し立てた。 「あの、南條先生!俺、先生のことそういう意味で好きなんじゃありません!!ついでに言うと南條先生が俺を好きだっていうのも勘違いだと思います!!誰かと間違えてませんか!?」 い、言えたぁぁ―――!! 言えたどぉぉ―――!!! 「……は?勘違い?」 「そう、勘違いです!南條先生にはもっとお似合いの可愛い子がいますから!……ていうか、まず俺を選ぶ時点で信じられないっていうか、ありえないっていうか……!」 俺、ていうかていうかうるせぇな。でも、せっかく舌回ってるしな…… ていうか今度は止まらないじゃねぇかよ―――!!!またていうかって言ったし!!! 「雨宮、」 「て、ていうか……その、」 もはや『ていうか』しか言えなくなった俺。南條先生の顔は見ない、見たらまた緊張して喋れなくなっちゃうから。 すると、南條先生はひどく穏やかな声で俺にこう言ってきた。 「……雨宮、もう一度俺の目を見て同じことを言ってくれないか?俺のことなんて好きじゃないって。お前のことを好きな俺の気持ちは、俺の勘違いなんだって」 えっ……!?どういうこと? 「ほら、雨宮」 「う……」 両の二の腕を掴まれて、顔を上げるように言われる。だけど俺は、南條先生の顔が恥ずかしくて見れない。 だってイケメンなんだもんんん!! 俺、イケメンに弱いんだもんんんん!! こんな近くでマジマジと見ちゃったら、また無様に鼻血噴くし!!そんなのやだ!! これ以上情けないところを南條先生に見せたくないので、俺は正直に言った。 「鼻血噴くのでイヤです!」 「鼻血?なんでだ?」 「先生の顔がカッコよすぎるからです!」 「………」 なんかこれはこれで恥ずかしいぞ、俺。 「雨宮、」 「っ!」 また顎クイされた。無理矢理上を向かされて、顔の距離は20センチ未満。やっぱり近い。 南條先生の端正な顔に見つめられて、俺は自分でも顔が赤くなるのが分かった。 「ほら、言ってみろ」 「あ……あぅぅ……」 むりむりむりむりむりむりむりィィ!! 南條先生の、色素の薄いガラス玉みたいな瞳の中に俺が映っている。どこにでもいそうな、平凡な顔をした俺の顔。 肌の色は白い方だけど(オタクだから)、奥二重の目に低い鼻と薄い唇。 どう見ても美男子じゃないし、超美形な南條先生に釣り合うような顔じゃない。 俺と南條先生じゃまったく萌えないし、並べてみても似合わない……。 「うっ……ひっく、」 「あ……雨宮?」 「もう、やだ……」 南條先生の目に映る自分の姿を見たくなくて、俺はとうとう泣きだしてしまった。

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