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第25話 傍観者だったのに
「池田氏、アホな雨宮氏を諭すために新しい視点から攻めてるでござるな」
「ええ……さすがりっちゃん様!」
「俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れる憧れるゥ!」
うるさいです、コメンテーターさん達。アホな雨宮氏ってなんだよ!!俺、一応このメンバーの中じゃ一番成績優秀だからな!! あとジョ○ョの名台詞をこんなところで使わないで、かなやん!!
「うっちゃん、真面目に聞いて!」
「き、聞いてるよぉ……」
「うっちゃん、中学の時からそうだったでしょ、憧れの攻め様に恋人ができたらすぐ諦めちゃうその悪い癖、いい加減なんとかしないとダメだよ!」
「そ、それは今まで相手が女子だったからだよ!吉村君は男子だし、それにとってもお似合いだし、俺、二人を妄想の中でどれだけ絡ませたかわかんないくらいだし……」
大体憧れの攻め様に恋人ができようとできまいと、傍観者の俺には関係ない!
「でもうっちゃん、さっきからすごく辛そうな顔してるよ。もう二人が絡みあってる妄想なんて全然してないんじゃないの?」
「……!」
――なんでりっちゃんは、いつも俺のことは何でもお見通しなんだろう。
でも、でもね……
「俺にもよくわかんないんだよ……っ!」
なんでこんなに胸が苦しいのか、
なんで吉村君と南條先生のことを想像すると、もやもやするのか。
こんなの、傍観者にあるまじきイミフメイな感情だ。ありえないものだ。
「……雨宮氏、池田氏、とりあえず落ち着くでござる」
暫しの沈黙が続いた中で、最初に口を開いたのはなぜか永田氏だった。永田氏は腐男子でもなんでもないのに何故ここにいるんだろうか……。それは誰にも分からない。
「とにかく、雨宮氏が今一番嫌なのは吉村氏と南條先生が付き合うということよりも、南條先生が誰か一人のモノになる、ということではござらぬか?」
「そう……なのかな……」
「一応、その気持ちは南條先生にはっきりと伝えるべきだと思う……でござる」
「………」
……なんで?
なんで俺がそんなこと南條先生に伝える必要あるの?
南條先生が俺のことを好きだって言ってくれたのは勘違いで、本当は吉村くんのことを好きだったとしても、いまさら誰のものにもならないでくれ、なんて。
そんなわけのわからないこと、俺が言えるわけがないじゃないか!
「うっちゃん……」
俺は、まだ何かを言おうとしたりっちゃんの言葉を遮るようにリュックを掴み、
「……今日はもう、帰るっ!」
そう言って、速足で美術室を後にした。
誰も、追いかけてはこなかった。
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