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第27話 ファミレスにて、雨宮姉弟

 きさ姉は、本当に俺を近所のファミレスに連れて行ってくれた。ファミレスは平日でも家族連れが多かった。ちなみに今の時刻は19時だ。 「頼むのは500円以内のモノにしろよ。僕お金無いから」 「俺の方がまだ持ってるよ、きさ姉……」 「じゃあ、ここは卯月のオゴリな」 「はーい……」  あの状況から連れ出してくれただけでも感謝してるから、晩御飯代くらいいっかと思った。母に晩御飯はいらないと啖呵切ったはいいけど、昼もろくに食べてないもんだから育ちざかりの俺の腹はさっきからグーグーとうるさい。ちょうど家を出る時に豚の生姜焼きの匂いがしたから、生姜焼き定食にした。 「うわ、明日の朝と昼の弁当も多分生姜焼きなのに、今からも生姜焼き定食食うのか?卯月」 「うん」 「お前がそんなに豚の生姜焼きが好きだとは知らなかったよ」 「………」  別にそこまで好きなわけじゃないけどさぁ……なんだか人数分の生姜焼きを作ってくれた母に申し訳ない気がするから、俺は敢えてそうした。  可愛らしい女性店員さんが注文を聞きに来て、きさ姉が注文した。きさ姉はミートソースのパスタを食べるらしい。店員さんはきさ姉を男性だと思ったのだろう、きさ姉を見るなりポッと顔を赤くしていた。  きさ姉は、女と知らなければただの金髪イケメンだ。俺とはあんまり似ていない。俺も、きさ姉くらいカッコよかったら……と思ったことはないこともない。 「だいぶ頭は冷えたみたいだな」 「うん」 「帰ったらまずは皐月姉さんに謝れよ。ピン子って言ったこと」 「それ蒸し返すと、ますます怒らせるから……」  ホントに、見れば見るほどきさ姉はイケメンだ。かなやんが大ファンなのも分かる気がする。でも友達だろうときさ姉は渡さない!(シスコン)  生姜焼き定食とパスタがきて、俺ときさ姉は家でするように丁寧に手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。友達と来てたらこんなこといちいちしないけど。 「――それで、学校で何があってイライラしてたんだ?」 「……友達とケンカした」 「え、律と?なんで?」  なんで相手がりっちゃんだってすぐに分かるんだろう、きさ姉。俺だって他にも友達はいますよ。……まあ多分、きさ姉だけじゃなくて他の姉さんたちも言い当てるんだろうけどさ。 「理由はわかんない……わかるけど、わかんない」 「何だそれ、意味不明だぞ卯月。僕はてっきり南條先生とまた何かあったのかと思ったんだけどな」 「先生とは、無いけど……」 「けど?」 「ライバルが現れた、っていうか……。いや、別に俺はライバルだなんて思ってないんだけど!そもそも南條先生のことを好きじゃないからライバルっていうのもおかしいんだけど、あ、最初にライバル出現だって言いだしたのはあいちんだから!とにかく南條先生を好きな男子が現れてさ、それで俺が先生から逃げたからりっちゃんに怒られたんだ」 「………」  俺は一気にそう説明すると、豚肉をごはんに乗せてぱくぱくと大口で食べた。とりあえず、関口くんに絡まれたところは省いておこう。  きさ姉はパスタを食べる手を止めて、ポカーンと口を開けて俺を見ていた。まさか、きさ姉まで俺を怒るつもりじゃないだろうな……そうだったら俺、もう家出する。 「……逃げる必要なんか無いだろ?ライバルったって、南條先生好きなのはお前なんだから」 「だから、それがそもそもの間違いなの!だって相手はあの吉村くんなんだよ!?学年一可愛い男子なんだから、南條先生の曇った目も覚めるってもんだよ」 「吉村って……ああ、お前が妄想で言ってた奴か」 「妄想がホントになったんだよ」 「それでお前はそんなに機嫌が悪いのか?」 「はあぁ!?」  つい大声を出してしまって、ギロリときさ姉に睨まれた。俺も慌てて両手を使って口を閉じる。 「だってそうだろ?お前自分の行動思い返してみたか?」 「だ……だって、理由がないじゃん……!」  俺がこんなにイライラしている理由。それさえ分かれば俺は誰かれかまわず八つ当たりなんかしない。もやもやも、何が原因か分からないから気持ち悪いんだ。 「理由?お前それが本気でわからないなら……自分が南條先生のこと好きじゃないって思ってるなら、ちょっとヤバいぞ」 「だって!俺は好きってのがどんな感情なのか知らないし!!」  俺の知ってる『恋』は、なんか無性にキラキラしていて、受けは攻めのことが好きでたまらなくて、攻めは受けのことを愛していて、それはもう甘くて甘くてとろけそうに甘いんだ。  そして俺はそんな二人をただずっと見ていたくて……。  意地悪なライバルもおせっかいな親友も、全部二人をラブラブさせるためのスパイスでしかない。でも俺自身が物語の主人公で、現実にそんな障害が現れたらどうやって対処していいのかなんてわからない。  だから、俺は恐い。  リアルが恐いんだ。 「……BLはファンタジーだから楽しいんだよ。そんなの当たり前だろ?」 「現実の恋愛は楽しくないの?」 「楽しいことばっかりじゃないのは確かだな。時にドロドロしてて、痛くて、面倒くさいよ。でも、楽しいから僕はやめられない」  その発言は、もしや…… 「きさ姉、もしかして彼氏とかいるのぉ……?」 「は?もしかしてって何だよ。普通にいるし」 「ええええ!?」  か、か、か、彼女じゃなくて彼氏ィィィ―――!?うそぉぉぉぉ―――!!! 「言っとくけどな、皐月姉さんにも葉月姉さんにも彼氏くらいいるぞ」 「うそでしょおおおおお!!?」 「卯月うるさい」 「………!!!!」

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