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第29話 友情、のちの宣戦布告

 気がついたら、もう朝だった。時刻は六時半で、いつも起きる時間だ。枕の横に置いていたスマホを手に取ってタップすると、LINE通知がいくつか来ていた。それは全て仲良しメンバーからで、俺はりっちゃんのメッセージから確認した。 『私も熱くなってごめんね。修造が乗り移っちゃった』 『修造にちなんで、もうひとこと……』 『うっちゃん、自覚する前から諦めんなよォォォ!!』 「あはは……ありがと、りっちゃん」  りっちゃん、普段はおとなしいのになぁ。のんびりしてるっていうか、ほんわかしてるっていうか。けど俺のこととなると熱くなってくれて……それがすごく嬉しい。お礼のスタンプを送って、続けてあいちんとかなやん、永田氏からのメッセージも確認した。  あいちんからは…… 『諦めたらそこで試合終了だよ』  かなやんからは…… 『逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!!』  永田氏からは…… 『我が生涯に一片の悔いなし!』 「………」  なんだこれ!!!お前ら絶対裏で打ち合わせしただろ!!そうだろ!!  しかもあいちんとかなやんのはまだ意味が分かる。けど、永田氏のセリフは慰めですらないじゃん!なんで死んでるんだよ!! 「ふふっ……!」  とりあえず、元気は出た。とびっきり! 「うっちゃーん!起きたのー!?」  階下から、母の呼ぶ声がする。それと、朝ご飯の美味しそうな匂いも。 「はぁい!起きてまーす!!」  元気に返事をして、俺は階下のリビングへと降りていった。 *  学校へ行ったら、何故か校門前に吉村くんが立っていた。まさかと思うけど、俺を待っているわけじゃないよね……?関口くんとかを待ってるんだよね……?  吉村くんは美形だから、女子が何事かとざわついている。 「お、おはよう……吉村くん」  俺も普通に挨拶して、通りすぎようとしたんだけど……。 「……おはよう。待ってたよ、雨宮」  やっぱり、俺を待ってた……?なんでぇ!? 「教室へ行く前に、ちょっといいかな。君に話があるんだ」 「話……?」  ど、どうしよう……なんか恐いぞ。吉村くんは関口くんみたいな乱暴者じゃないから、殴られることはないと思うけど。吉村くんの端正な後ろ姿を見つめながら、俺は猫背ぎみになりながら付いていった。  俺と吉村くんの共通点って、同じクラスで背丈が同じくらいってとこだけだな。正面から俺たちを見たらさぞかし、薔薇とタンポポみたいな感じだろうか?いや、タンポポってかわいいな、すみれか?れんげか?いや、まだかわいいぞ。もっと地味な花ってなかったっけ……。  でも。 『自覚する前から諦めんなよォォォォ!!!』 『諦めたらそこで試合終了だよ』 『逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!!』  いくらかなわないってことが分かってたって、俺には応援してくれる友達がいるから……(何の応援だって感じだけど)俺は、吉村くんから逃げない。    昨日一晩考えて、俺も南條先生に伝えたいことができたんだ。  そして、気付けば俺たちは裏庭へ来ていた。吉村くんは急に立ち止まると、くるっと俺の方を振り返って唐突に話しだす。 「昨日、慎太郎から話は聞いたよ」 「えっ?」  何の話?俺が関口くんに一方的に脅されたって記憶しかないけど。 「でも俺は絶対に諦めないし、今は無理でも雨宮に負けるつもりは毛頭ないから。どんなに見込みがなくってもね……、覚えておいてよ」 「……っ」  いっ、いきなり宣戦布告キタァァ……!!    ううっ……吉村くんに勝てる気なんて俺にも皆無だけどさ!むしろ誰よりも応援していた立場なんだけど。今は無理とか、見込みがないとか一体なんの冗談かな?  ――でも、俺ももう、吉村くんと先生を絡ませる妄想はできないんだ。  分かっちゃったから……。 「お、俺だって……」 「え?」 「俺も吉村くんには負け……っ、負けないといいなぁ!!」 「希望!?」  あっ、吉村くんにツッコませてしまった。 「「………」」  俺達はしばらくの間、見つめあったまま膠着状態だった。それにしても吉村くんの顔、全然見飽きない、すごい。俺は目を逸らされないのをいいことに、漫画の資料のためにじっくり観察しておいた。はー、まつげ長っっ!  でもチャイムが鳴ったから、どちらともなくダッシュして教室に向かった。

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