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第31話 永田氏からのアドバイス

 そして、あっという間に放課後になった。今度こそ……今度こそ吉村くんより先に化学準備室へ行ってやるぞっ!!気合いを入れて教室から走り出そうとしたら、 「あれ、彰吾。放課後は勉強しに行かないのかよ」 「うん、今日は職員会議なんだって。昼休みに言われたー」  それを聞いて、大きく足が開いて前に滑った。か、会議なら仕方ないな……。やる気が空回りしている俺をりっちゃんが見かねて慰めてくれた。 「うっちゃん、元気だして。部活に行こっ」 「うん……」 「ほらぁ、シャキッとしてシャキッと!」 「はーい」  りっちゃんは俺の左腕を両手で組むようにして、ズルズルと美術室に引っ張って行く。当然周りからは好奇な目で見られるけど、俺もりっちゃんも慣れたもので気にしない。言いたい奴には言わせておけばいいんだ。 * 「うわぁ、うっちゃんの目が死んでる」 「大丈夫?」 「拙者が今朝ラオウの名台詞を送ったからでござるか!?」  美術室に着くなり、あいちん、かなやん、永田氏に心配された。 「我が生涯に一片の悔いなし……ってあるわ!ありすぎるわ!!」 「おっ、生き返ったでござるな」  何でだろう、もやもやがおっきくなりすぎて身体まで重い。それに、ずっと心の中で愛でていた吉村くんにああまで敵視されて睨まれるのもストレスだ。これはもう、二次元のイケメンを見て癒されるしかない……。 「りっちゃん、俺にイケメンのイラストを描いて下さい……!」 「よしきた!」 「あ、私も描くーっ!」 「私も私も!」  こういう時に神絵師の友達は持つものだな。あ、俺達これでもマジメに部活してますよ? *  三日が経過した。  ――イラ。 「彰吾、今日も化学室行くのか?」 「うん!意外と化学が楽しくなってきたんだ」  イライライラ。  なんと俺はまだ、南條先生に会いに行けていない。授業の後、昼休み、放課後、全部吉村くんに先生を取られていて。今日の昼休みは吉村くんよりも先に化学準備室へ行ったけど、ドアをノックする前に『雨宮は化学得意なんだから聞く必要ないだろ』って横から冷たく言われて押しのけられた。  確かに俺は勉強を聞きにいこうとしてるんじゃないよ!?でも、南條先生に言いたいことがあるんだよ!!  どんどん大きくなってくるこの気持ち。でも、少し意地にもなってきてる。きっと先生に言ったからって、何かが変わるわけでもないけど……。 『雨宮氏が今一番嫌なのは、吉村氏と南條先生が付き合うということよりも、南條先生が誰かのモノになる、ということではござらぬか?』  誰のモノにもならないでよ……先生。  ずっと、ずっと俺の―――…… * 「はぁ……」 「辛気臭いツラをするなでござる、雨宮氏」  今は男女別の体育の授業中。B組と合同授業だから、永田氏と一緒で俺はぼっちにならずに済んでいる。バスケをやってるんだけど、関口くんが大活躍していた。そういえば彼はバスケ部だったっけな……。 「その様子だと、まだ南條先生には個人的に会えてないでござるか?」 「だって吉村くんは勉強のために会いに行ってるのに、俺が邪魔はできないよ……」  最初は勉強とか絶対違うだろ、って思ってた。でも今日の化学の授業で当てられた吉村くんは、ちゃんと正解を答えていた。それを見ていた南條先生も少し嬉しそうだった。そりゃ、あんなにつきっきりで教えていて成果が見られたら、先生として当然嬉しいだろうけど……。 「じゃあ、勤務時間外に会いに行けばいいのではござらんか?」 「勤務時間外?」 「つまり、放課後の……」 「ダメだよ、放課後も吉村くんに取られてるもん」 「その後でござるよ」    その……あと?  永田氏は、真剣な目で俺を見つめている。今時珍しい牛乳瓶の底みたいな分厚いメガネをかけてるから、目っていうかメガネが俺を見つめているんだけど。  一部で「あいつら絶対ホモだ」とか言われてるけど、二次元の嫁激ラブな永田氏は三次元の輩に何を言われようとものともしない。そういうところはすごく尊敬している。 「南條先生が帰る時間まで校内で待ち伏せて、話をするでござるよ」 「でも……」 「ちなみに南條先生の愛車は、クソぼろい黄色のフィアットでござる。ル○ン三世が乗ってるのと同じやつだ」 「クソぼろいって言うな。……なんで、そんなこと永田氏が知ってるの?」  俺だって知らなかったのに、永田氏なんか南條先生の車とか死ぬほど興味ないはずだろう。 「わざわざ調べてやったのでござるよ。……めんどくさい、友人のために」 「……!」 「そろそろ自分の気持ちも自覚してるようでござるし……頑張るでござるよ、雨宮氏。まったく、三次元の男なんてこの世で一番どうでもいい生物(イキモノ)なのに、何故か雨宮氏はほっとけないのでござる……」 「永田氏ぃぃっっ!!」  体育が男女別でよかった。でないと美術部で永田氏×俺の同人誌が作られてしまうところだっただろう。俺は、永田氏に正面からひしと抱きついていたから。 「(多分、雨宮氏の行動のすべてがホモだと誤解されてる原因でござる……)」

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