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第33話 涙の告白

南條先生の部屋は、別にそんなに散らかってはいなかった。というのも、物自体があまり置いてなかったからだ。 フローリングのリビングには、大きな薄型テレビと木製のテーブルと黒い革製のソファ、温かな色味のラグマット。窓にはカーテンじゃなくてブラインドが掛かっていた。 あとはオシャレな観葉植物なんかがあって、いかにもイケメンの部屋――というか、モデルルームのような感じだ。 でもソファに部屋着が無造作に置かれていて、そこだけ妙な生活感があった。 テーブルの中央にはガラス製の灰皿がおいてあり、煙草の吸殻が3本ほど残っていた。 「適当に座ってて、コーヒーでいいか?インスタントだけど」 「あっ、はい。おかまいなく」 俺はソファに座ると、先生の部屋着をに畳んだ。なんとなく手持ちぶさただったからだ。 「お、サンキュー」 「いえ……」 「雨宮、服畳むの上手いな。俺苦手でさ」 そうなんだ。イケメンって何でも完璧に出来るイメージなんだけど。でも不器用なイケメンとか超萌える……!俺、さっきから萌えてばっかりだな。 南條先生はコーヒーの入ったマグカップを俺の前に置くと、俺の畳んだ部屋着をどこかに持っていった。そしてすぐに戻ってきて、俺の隣に腰を下ろした。 「………」 近っっっ!! 一応三人掛けのソファだけど、先生わざと近くに座ってないか!?肩と肩がくっつきそうなんですけど!! 「それで、俺に話ってなんだ?雨宮」 「あっ……と、その……!」 「ゆっくりでいいよ」 やばいやばいやばい!!化学準備室で向き合って座ってる時よりも近い!!俺と先生を隔てるモノが無い!!抱きしめてくれたりしたら逆に顔を見なくて済むんだけど、とにかく近い!!顔を覗きこんでくるのはマジでやめてください!! は、鼻血が出る……また鼻血が噴出してしまうぅ……! 南條先生はそんな俺を見てもちっとも距離を縮めない。俺はとてもじゃないけど先生の顔を見ることなんてできなくて、太もも辺りに目を向けていた。 しかしこの太ももの上にあの綺麗な顔がくっついているのかと思うと、太ももですら見てるのが危うい。でもそれじゃあ俺、南條先生のどこのパーツも見れないじゃん!そんなのやだ! ああもう、言え、俺。 たいしたことじゃない。 さっさと言って、楽になってしまえっ!! 「あ、あのですね」 「うん」 「南條先生……あの、俺……」 「うん」 舌噛みそう……。 思わず深呼吸をした。 「南條先生……ずっと俺だけの先生でいてください!!」 ……… ――あれ? 「ああ……やっと言ってくれたな雨宮、俺はずっとそのつもりだったぞ!!」 ギュッと抱きしめられた。ふわりとオトナの匂いに包まれ……ちょっ、待って待って、言い間違えたァァ!! 「あ、あの、言い間違えました!!」 「ん?」 南條先生が俺の身体を離して、顔を覗き込んでくる。ひぃーーー!!イケメンの至近距離攻撃破壊力ハンパねぇ―――!!! 「南條先生、ずっと俺の攻め様でいてくださいっ!!」 「だから、そのつもりだって(また出た、謎のセメサマ)」 「い、いやぁ俺のっていうか、俺のであって俺のじゃないけど、なんていうか……!!」 "俺の"って言ったら、なんか俺が受けみたいじゃんか!!違うそうじゃなくて、先生が誰と付き合おうと構わないけど、……嘘、本当は嫌だけど……それでも俺の理想の攻め様として、これからも愛でるのは続けてもいいですかってニュアンスのことを聞こうとしてたんだ俺は!! なのにこれじゃまるで、愛の告白じゃないかぁぁ……! 違う、俺は告白なんてするつもりはなかったんだ。そんな大それたこと……! 「落ち着け、卯月」 「あ……」 南條先生、今、俺のこと名前で呼んだ? 「卯月、俺のこと……好きか?」 「……!」 心臓がうるさいくらいドクドク鳴ってて、頭に血が昇って脳が破裂しそうだ。 「言ってくれ、卯月……」 『 好きってのがどんな気持ちなのか』なんて、俺はもう、きさ姉に言えないよ。 「……好き、です……」 本当は、最初から分かってたんだ……。 ただ、自分の気持ちを認めたくなかった。 怖かったから。 「俺……南條先生のことが、好きです……」 なんで俺、泣いているんだろう。

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