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第35話 律の懺悔という名の告白

* 「ごめんね、うっちゃん」 「え?」 週末も無事に過ぎて、今日は月曜日。今日の昼休みも相変わらず吉村くんは南條先生のところに質問に行ってるから、俺はりっちゃんとともに美術室へ向かった。 とりあえずみんなには、金曜日にラインで報告している。『無事に南條先生とお付き合いするようになりました、みんな応援してくれてありがとう』って。 その後すぐに『お付き合いじゃなくてお突き合いでしょ?』という、およそ女子とは思えない下品な返信が約三名から返ってきましたが。 さすが腐女子、ゆるぎなさすぎるぜ……! そして何故か今、俺はりっちゃんに頭を下げられているのだ。あいちん、かなやん、そしてすっかりお馴染みになった永田氏もその謝罪の意味が分からないらしく、俺同様にキョトンとしている。 「実はね、私2週間くらい前に吉村に好きだって告白されてたの。黙っててごめんね」 「え……!?」 「と……!?」 「う……!?」 「誰でござるか、えとうって」 俺が『え』って言っただけで適当にあとに続くなよ!!マジでえとうって誰だよ!!ていうか、ていうか、 「マジでぇぇ!?!?」 「マジで」 吉村くん、だから俺をあんなに冷たく睨んでたのかーーー!!そういえば、後ろを振り返ってりっちゃんと話してたとき、いつも目が合ってたな。 関口くんも、彰吾の邪魔すんなって……ホモじゃねぇのかって……ああ、なるほど。謎は全て解けた!! ていうか関口くんも吉村くんもちゃんと名前を言えよぉぉぉぉ!!「分かってるだろ」みたいな顔して勝手に色々言いやがって、わかるかァァ―――!!! 「いや、最初からりっちゃんが教えてくれたら良かったんじゃん!?」 「そうなの、だからごめんね?」 「なんで教えてくれなかったの!?俺ら親友でしょ!?」 「丁度うっちゃんが綺麗に勘違いしてくれてたから……これを利用して、うっちゃんが南條先生への恋心を自覚してくれたらいいなぁって思って。案の定うまくいきました!」 「案の定じゃないよ!」 なんてこったい!俺はまんまとりっちゃんの策にはまったんじゃないか!! 「さすがりっちゃん様、俺達にできないことを以下略ッ!!」 「そこは省略しなくてよかったんでないか、かなやん殿ッ!!」 「全部言うのが面倒くさかったのでござるよ、あいちん殿ッ!!」 「拙者の口癖をパクらないでもらえるか、大月氏ッ!!いや、大月殿ッ!!」 ああ、今日も美術室は平和ですね……。遠くのガン○ムオタクのグループや他の腐女子グループがニヨニヨしてこっち見てるし。 皆さんも俺を心配してくれてたんですね、どうもありがとうございます。 俺は脱力して言葉が出ないよぉ……感謝してるって言えばしてるけど。 でも最初から分かってたら、俺もりっちゃんと腕組んだり肩組んだり内緒話とかしたりしないって!吉村くんから見たら俺、マジで殺したいくらいムカつく奴じゃん!!好きな子とベッタベタしまくってさぁ!! 関口くんに付き合ってるのかって聞かれた時も、たいして否定しなかったし!はっ!早く否定しないと吉村くんが可哀想だ……!! 「んでっんでっ、りっちゃんはなんて返事したの?吉村君に」 「あーそれ気になる!一応学年一モテる子じゃん!?吉村君!!」 あいちんとかなやんは、吉村くんの想い人がりっちゃんだと分かってもたいして動揺していない。女子だからなのか……?すごいな女子。 「えぇ~?吉村よりうっちゃんの方が余裕で可愛いでしょ」 「はぁっ!?それは無いから!!」 なんてこと言うんだよ、りっちゃん!! 「付き合うことにしたんでござるか?」 「まさか!顔が可愛いだけのオトコに興味ないからって言って振ったよ」 「え"え"え"え"!?」 「なんでうっちゃんがそんなに驚くの?」 だってあの吉村くんに告白されたのに、りっちゃんてば理想が高すぎるよ!!いや、単に好みの問題かもしれないけど!! 俺だって吉村くんに告白されたら多分迷っちゃうよ!?男だけど!! でも、それは南條先生と出会ってなかったら、かな……まあ俺が吉村くんに告白されることは絶対無いけどさ。 「そっか、それで吉村君急に化学の勉強し始めたんだね~」 「へ?」 なになに、どういうこと?あいちんっ! 本気で意味が分からない俺に呆れ顔をしたあいちんの代わりに、かなやんが答えてくれた。 「ニブイなぁうっちゃん!吉村君はね、りっちゃんに一番身近な男子……つまり打倒うっちゃんのために、とりあえずうっちゃんの一番得意教科である化学の成績で勝とうと考えたわけ。あんな可愛い子でも、考えることは男子のように単純なんだねぇ」 「いや、吉村くんは男子だから。何もおかしくないから」 かなやんの解説で、俺もやっと吉村くんが化学を勉強し始めた理由が分かった。そりゃ好きな女の子にそんな振り方されたら、努力せざるを得ないよね……。 そのせいで俺は盛大な勘違いをしたわけだけど、結果オーライかな。 「今度の中間テスト、吉村君のりっちゃんへの愛が強いか、うっちゃんの南條先生への愛が強いかめっちゃ見物だね!」 「ほんとほんと!楽しみ……じゃない、テスト自体は全然楽しみじゃなかった………」 「そうでござるな……」 テストの話題になるといきなりみんなのテンションが下がった!りっちゃんもこの世の終わりみたいな顔してるし! んじゃ、ここは俺の出番だよね。 「みんなも今から化学の勉強する?みっちり教えてあげるよ!」 「「「「テスト前だけでお願いします」」」」 今度は永田氏も勉強会に参加するようだ。それにしても化学って本当に人気ないな……南條先生の声をただひたすら集中して聞いてるだけで、できるようになるのになぁ(※卯月限定である) 「あ、うっちゃん。吉村に言わないでね、私たちがただの友達だってこと」 「え、何で!?」 吉村くん、絶賛誤解中!? 「だって面倒くさいし……。うっちゃんだって私と付き合ってることにした方が南條先生と自然にお付き合いできるからいいと思うの。カモフラージュってやつだよ」 「う、うーん……?」 でもそれって吉村くんに悪くないか?ああ、可哀想に……好きになった人が悪かったね。 「いいの!だって私がうっちゃんのこと大好きなのは事実だもーん」 「へ?」 そ、それはまた問題発言なのでは!?友達としての好き、だよね?そうだよね!?それ以外ありえないよね!?!? バッとあいちんとかなやんの方を見て助けを求めると、二人ともニヤニヤしている。 「私もうっちゃんのことだーいすきっ!」 「私もうっちゃんのこと超愛してるっ!」 「あ、じゃあ拙者も雨宮氏のことが大好きでござるよ(棒読み)」 じゃあって何だよ、オイ。永田氏は違うだろ、絶対違うだろーー!! でも…… うん。 「俺もみんなのこと……大好きだよ!」 これが正解……かな?

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