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第42話 お家にお邪魔します
部活中、俺は原稿のペン入れをしてりっちゃんがモブや効果などを描いてくれて、あいちん&かなやんがベタ入れ、永田氏も消しゴムかけを手伝ってくれた。アナログ原稿作成は辛い!
トーンなどの仕上げは帰ってから自分でする予定だ。勉強を教える代わりに手伝ってもらってるんだけど、本当みんなには感謝しかない。
帰ったら今度は俺が姉さんや母さんの原稿を手伝わないといけないから、自分の作業が楽になるわけじゃないけど……全部好きでやってることだから苦痛じゃない。
仮にも美術部なんだから、もっと油絵だとかコンクール用の絵だとか描かなきゃいけないんだけど、顧問は運動部と掛け持ちだし、基本的に活動内容は自由なのだ。
だから運動部を追われた(?)オタク達が自然と集まってくるんだよなあ、美術部。居心地は最高です!
そして、部活終了後。
「ばいばい、うっちゃん!デート頑張ってね!」
「ハーイだけじゃなくて、もっといろんな単語しゃべるんだよぉ!」
「バーブーとチャー!も忘れないようにね!」
「あいちん、それイ○ラちゃん」
りっちゃんとは中学も同じだから家も比較的近い。なので下校はずっと一緒だったんだけど、最近俺が南條先生と付き合いはじめてからは別々に帰るようになった。
りっちゃんを一人で帰らすのは最初は少し抵抗があったけど、俺が先生と帰るとき、りっちゃんはあいちんとかなやんと三人で時々お茶して帰ってるようだ。正直、それも羨ましい。
けど、俺には南條先生がいるから。どっちも取りたいなんて、我が儘なんだろうな。
*
「卯月、お疲れさま」
「は、はいっ」
職員駐車場に行ったら、南條先生はすでに車の中で携帯をいじりながら待っていた。俺は少し緊張しながらも、助手席に乗り込んだ。たった今吸ったばかりなのか、車内には少しタバコの匂いが残っている。
「あ、悪い。臭いか?窓開けてたんだけど」
「い、いえ!」
べつに好きじゃないけど、南條先生が吸うタバコの匂いなら気にならない。だってタバコ吸う姿もかっこいいんだもん。
それにしても、やっぱり緊張するなぁ……。
だって付き合うことになった次の週はすぐテスト期間だったし、そのあとは漫画の下描きに没頭していたし。先生とは昼休みと、こうして放課後一緒に帰るだけ。それも毎日じゃない。
そして……何故か先生は、俺に一切手を出して来なくなった。
「テスト全部返ってきたか?」
「はい」
「どうだった?」
「まあまあでした。化学以外」
「そうか」
あーあ、また先生の家に行きたいなぁ。でも原稿があるし、手伝いもしなきゃだし。
だから夏コミが終わったあとに……先生の家に行ったら、キスとかそれ以上のこともしてくれるのかな。
「卯月?どうした?」
「は、はいっ!?」
やばい、ぼーっとしてた!せっかく南條先生といるのに、俺のばかちん!!
軽く自己嫌悪していたら、いきなり先生に軽く頬を摘ままれた。そしてそのまま、俺の顔を至近距離で覗きこんできて……ちゅって、軽くキスされた。
あまりにも不意打ちすぎて、声も鼻血も出ない。
「帰りたくない、って顔してるぞ」
「……!」
俺は帰って原稿を……今日はトーン貼りをやる予定で……
「今から俺の家、来る?」
「えっと……」
葉月姉さんとお母さんの手伝いが…………
「どうする?忙しいなら無理にとは言わないけど」
「行きたいです!!」
そう言ったら、先生がほっとしたような顔で笑った。その笑顔を見た途端、俺の頭の半分を占めていた葉月姉さんとお母さんへの後ろめたさは一気に消え去ったのだった。
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