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第50話 雨宮家へようこそ
「ただいまぁ!」
意を決して、思い切りリビングのドアを開けた。が、電気は点いているもののやはり誰もいない……しかし、先ほどまではいたような気配は感じる。
ちょ……隠れてんのかよ!?なんで!!?
「おかーさん!葉月姉ちゃん皐月姉ちゃん如月姉ちゃん!!おーい!どこだよ!!」
俺はリビングに向かって叫んだ。それでも、返事は誰からも帰ってこなくて……。
「家の人、いないのか?」
「わかりません、さっきまでいたと思うんですけど、隠れてるのか……出かけたのか。でもこんな時間だし、俺が先生を連れてくるってわかってるのにどこか行くはずないんですけど」
「ふうん……俺、出直した方がいいか?もしかしたら、連れてこいとは言ったものの、やっぱり会いたくなくなったのかもしれないだろ?」
「それはありえません」
「い、言い切るなぁ卯月……」
だって姉さんたち、リアルイケメン見たいとか言ってたし!
全く、せっかく南條先生に来て貰ったのに隠れてるとか、どういう仕打ちだよ!失礼にもほどがあるだろっ!
まあ、怒られないパターンだとして、だけど!
「それにしても卯月、お姉さんが三人もいるんだな。四姉弟なのか?」
「はい、この家で男は俺とお父さんだけです」
「ははっ、すごく賑やかそうだなぁ」
「うるさいだけですよ……」
冷静に考えてみて、やっぱり怒られるのはありえない気がしてきた。
だって、俺を南條先生に嫁にやるとまで言ってたもんな。
南條先生が学校を辞めて、俺も高校を辞めて先生と暮らすとか言ったら一番喜ぶのは誰だ?
そんなの、うちの腐女子どもじゃねーかっ!!
あっぶねぇ、罠にはまるところだった!!
絶対無事に卒業してやるからなぁぁぁ!!!
「じゃあ卯月、俺は帰るよ。もう遅いから早く寝るんだぞ?無理もさせたしな」
「あ、先生待ってください!」
思わず、帰ろうとした南條先生の腕を掴んだ。
「どうした?」
「いや、あのっ……」
何やってんだ俺!
南條先生は帰るって言ってるのに阻止するようなことして。
だって、さっきまであんなにくっついていたのに、このまま離れたくないなんて思って……。
「また月曜日に会えるだろ?」
「そ、そうですね……」
月曜日?
南條先生、明日とか明後日は用事があるのかな?
どうしよう、毎日会いたいとか……俺、重い?
「卯月」
突然優しい声で名前を呼ばれて、顔を上げると真正面に先生のイケメンすぎる顔があった。
そして目を閉じる暇もなく、チュッと軽いキスをされた。
「……っ!」
ふ、不意打ちは鼻血出るっ!!
いや、むしろ吃驚して鼻血引っ込んだ!!
「そんな淋しそうな顔するな。会いたかったらいつでも電話していいし、そしたら会いに行くからさ」
「せ、先生!」
先生は『ン?』って優しい顔で俺の顔を覗き見る。
そしてもう一度顔を近づけてきて……
パシャッ パシャパシャッ
……ん?今、なんかシャッター切る音した??
「ちょっ葉月姉、シャッター音聞こえてるって」
「あ、やばーい」
おい……
「さぁもう一度いい角度で、南條先生キス、ゴーッ!」
「動画撮影の準備もばっちりだぞ」
「おいいいいいい!!!!」
聞こえてんだよォォォ!!
全然ヒソヒソしてねーんだよ!!!
ってゆーかどっから見てんだコラぁぁぁ!!!
すると、隠れるところなどほぼないリビングからぞろぞろと母と姉が姿を現した。
テーブルの下から葉月姉さんと皐月姉さん。
「ちぇっ、見つかっちゃったぁ~」
「空気読みなさいよ、この愚弟がっ!!」
ソファーの裏から如月姉さん。
「そうだぞ卯月、せっかくの記念写真が台無しだ」
キッチン横のカーテンの裏からお母さん。
「お帰りなさい、うっちゃん!そして南條先生、ようこそ雨宮家へー!」
「あっ……えっと……はいっ……」
南條先生、あまりにもびっくりしたのか(多分、用意していた)挨拶忘れちゃってるよ……。
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