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第54話 南條先生、卯月姉からBLを教わる②
「それで南條先生、今母から同人という言葉が出ましたけど、同人誌はご存知じゃないですよね?」
「はい」
歴史の授業で聞いたことがあるような気がするが、説明しろと言われたら絶対わかんねぇよ。
「色々細かい説明は省きますけど、私達姉妹は……卯月もですけど、自分でBL漫画やBL小説を書いて、それを自費出版してるんです。それが同人誌です」
「へー、自費出版。凄いですね!」
「完全に趣味なので凄いってこともないんですが、それなりに大手なのでそれなりに人気はあります」
皐月さんはうっすらとドヤ顔をしてみせた。
なんかその顔、少し卯月と似てるな。
「で、こちらが去年の冬のイベントに出した同人誌です。葉月姉さん」
「はーい」
皐月さんに言われて、葉月さんがA4サイズの冊子のようなものを俺の前に掲げた。
表紙には、やたらと美形な男キャラが2名、今にもキスしそうになっている。
確かにゲイ雑誌とは全然雰囲気が違うな。男が表紙だけど少年漫画とも違うような……。
なんとなく分かってきたぞ。
「その表紙、私が描いたんです~」
「えっ!?」
のほほんと葉月さんが言い、俺は彼女と本の表紙を交互に見た。
「うっま!!え、イラスト上手すぎじゃないですか!?プロか何かじゃないんですか!?」
「このくらい普通ですよ~」
「ふつう!?」
俺は絵なんて普段描かない人間だから、これが素人が描くものでしかも普通レベルなんて、じゃあプロはどんだけ凄いんだよ、と驚いた。
プロでも絵が下手くそなやつってたまに見かけないか?
俺は中身もぱらぱらとめくった。
「……ん?」
その中に、なんだか俺と雰囲気が似てるようなキャラクターがいるのを発見した。
俺の視線の先を見て、葉月さんが言った。
「その漫画は卯月が描いたんですよ」
「卯月が?」
葉月さんとはまた違うテイストの絵柄だが、さすが美術部だけあってすごく上手だ。
上手……なんだが、このキャラクターって……
「モデルは南條先生なんですって」
「あ、やっぱり」
髪型とか白衣とか、モロに俺そのものだった。
この本は冬に出した、って言ってたよな。
その頃から漫画のモデルにするくらい俺のことを好いてくれてたなんて、なんとも恋人冥利に尽きる話じゃないか。
本当、もっと早く告白しとけば良かったな……。
そんなことを思いながら、黙って卯月の漫画に目を通す。
「あの子ったら、最近の攻めのモデルはほんとに先生ばっかりなんですよ」
「ほんっと、描き分けもクソも無いわよね」
「……セメ?」
聞き覚えのある単語に反応し、俺は顔を上げた。
すると皐月さんが説明してくれた。
「ああ、同人用語です。ネコのことを受け、タチのことを攻めっていうんです」
「じゃ、セメサマって」
「あはは、卯月から聞いたんですか?アイツだけですよ、攻めに様とか付けるのは。南條先生が攻めのモデルだからでしょうかねー」
セメントの一種じゃなかったのか……!!
あれ?じゃあ卯月が前に俺に言った、
『ずっと俺の理想の攻め様でいてください』
って言葉……あれって結局どういう意味なんだ??
よく分からないので、とりあえず俺は卯月が描いた漫画の頁を進めてみた。
「!」
そこで、また新たな発見をした。
「このキャラって……」
言いかけた途端、ガラッと扉が開いた。
「もう姉さんたちいい加減にして!南條先生にそれ以上腐った知識を詰め込むなよぉ!!」
如月さんから解放されたのか、卯月がだいぶ焦りながら客間にやって来た。
「チッ、邪魔すんじゃないわよ、まあ基本的なことはほとんど教えちゃったけど」
「ああああ!!南條先生!それは読んだらダメーっ!」
「あっ」
冬コミとやらの新刊を奪われた!まだ全部読んでなかったのに……まあいい。
一つ気になることが出来たから、俺はそれを卯月に確かめないといけない。
「ところで南條先生、お食事はもう済ませてるんですっけ?」
「あ、それがまだでして」
学校から帰ったあと、とりあえずセックスしかしてないからな……あとシャワー。
思い出したらなんか腹が減ってきたぞ。
「じゃあ急いで用意しますね!卯月、あなたはお部屋の片付けでもしてきたら?先生とは今夜一緒に寝るんでしょう?」
「えっ!?いや、俺は床に布団敷くし」
「一緒に寝てくれないのか?」
俺がそう言った途端、卯月は顔を真っ赤にして、女性陣からは歓喜の悲鳴が上がった。
あ、そういえばこういうのが好きなんだっけ……。
「も、もう先生!!そんな腐女子を喜ばすようなこと言ったらダメですってば!!」
「でもお前も腐男子なんだろ?」
「そ、そうですけど……そうですけどぉ……!うわーんっ!南條先生の口から腐男子とかそういう単語聞きたくない!!」
「ええ!?」
俺は何かマズイことを言ったのか!?使い方を間違ってたとか?
オロオロしてる間に、卯月は泣きながら自分の部屋へと上がって行った。
「南條先生、あまり気にしないでください。アイツまだ思春期なだけですから」
「と、とりあえず追いかけてきます!」
皐月さんはこう言ってるけど、恋人として泣いている卯月を放っておくわけにはいかないから俺は腰を上げた。
確かめたいこともあるし。
「夕飯の準備できたら呼びますね~」
「は、はい、ありがとうございます」
「南條先生、あとでモデルしてくださいね!」
「はは、俺でよろしければ」
少し変わってるけど、普通にいい家族じゃないか。息子がゲイでも心が広いし……いや、広すぎるだろ。
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