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第55話 やっぱり先生が一番優しい

【卯月視点】 あああ……お姉ちゃん達めぇ……!! 俺の素敵な南條先生に余計な知識をたんまりと教え込みやがってえぇ!! そりゃー俺だって、いつかは言わなきゃいけないって思ってたよ? ずっと秘密にしておけるはずないし? でも、でもさ…… こんなにいきなり、しかも超詳しく教えようなんて思ってなかったよ!!! そういう趣味の漫画があるんだよ、程度しか教えたくなかったよ!!! しかも俺が描いた漫画まで見せられるとか、どういう仕打ちなの!? 南條先生、ぜったい自分がモデルだって気付いたよぉぉ!! 俺、めちゃくちゃキモイじゃん!! ああ……どうしよう……。 俺はベッドにダイブした。 南條先生も一緒に寝るって言ってたから、お布団整えないといけないのに。 あっ、あと監視カメラと盗聴器のチェックな! これ、一番大事!! 知らない内に仕込まれてるかもしれないし!! すると、ドアがコンコンとノックされた。この家で俺の部屋のドアをノックする常識人とかいたっけ? 「卯月?入っていいか」 「南條先生!?なんで!」 「さっき泣きながらリビングを出ていったから気になって……大丈夫か?とにかく、ここを開けてくれないか」 南條先生、ホモ漫画のモデルにされてたこと、怒ってないの? それどころか、泣いて逃げた俺のことを心配してくれてるなんて……。 やっぱり南條先生は俺に優しい。 とってもとってもとっても優しい。 家族の誰よりも、いちばん。 「うづ……」 「なんじょー先生ぇーっっ!!」 感極まった俺は、勢いよくドアを開けると南條先生の胸の中に飛び込んだ。 「どうしたんだ、そんなに趣味のことを知られたくなかったのか?そんなことくらいで俺が卯月を嫌うわけないだろ?」 「それもありますけど、南條先生が優しすぎて……!」 この家の中じゃ、俺はお父さん以外に優しくされるのに慣れてないんだよぉぉ! 「と、とにかく落ち着け。部屋に入ってもいいか?」 「はい……」 ぐずぐずとぐずりながら、俺は部屋に南條先生を招き入れた。 ……っていっけねぇ、全然片付けしてなかったし!机の上にやりかけの原稿広げっぱなしなんだけど!! 慌てて片付けようとしたけど、南條先生は目敏くそれを見つけて、ペン入れしている原稿をヒョイっと一枚手に取った。 「せっ、先生!それは!」 「卯月って、吉村の顔が好きなのか?」 「え?」 南條先生を見れば、少し面白くなさそうな顔をしていた。え、なんで?? 「あのさ……さっきお姉さんたちに冬コミとやらの漫画を見せてもらったんだけど、一つだけ納得がいかなかったことがあるんだ。何で俺の恋人役が、卯月じゃなくて吉村なんだ?」 「あっ……」 俺が高校生になって描いた漫画は、ほとんど攻めは南條先生がモデルで、受けは吉村くんがモデルだった。 「卯月は俺のことが前から好きだったのなら、せめて漫画の中でくらいは恋人同士になりたいって思わなかったのか?」 「いや、そんなの恐れ多いっていうか……俺が南條先生とくっつくとか全然萌えませんし……想像もしてなかったといいますか」 脳内でもずっと南條先生×吉村くんで今まで楽しませてもらってきましたし? やっぱりBLは美形同士のカプが萌えるじゃありませんか!! 「俺のことが好きなのに?」 「それとこれとはちょっと別っていうか……」 腐女子や腐男子が何に対して萌えているのかを今さっき知ったばかりの南條先生に、この感情を説明するのは少々難しそうだ。 そもそも南條先生×吉村くんは俺の勝手な妄想なんだから、現実とは違うんだけどなぁ。 現実の吉村くんはりっちゃんのことが好きだっていうし。 「でもこの描きかけの漫画、吉村は出てるみたいだけどキスしてるのは俺じゃないんだな」 「あっ!」 よりによってエッチ突入前のシーンを見られちゃいましたよぉぉぉ!! やべえぇぇ!!恥ずかしすぎて死にたい定期だよこれぇぇぇ!!! それは南条先生×吉村くんじゃなくて、関口くん×吉村くんカプの原稿だった。 『俺の親友が可愛すぎて辛い』ってやつ。 「これは……んーと、関口かな?」 「は、はひぃぃ」 南條先生ってば、なんでそんなにホイホイとモデルになった人物を当てられるの!? 俺ってそんなにあからさまに描いてるかなぁ!? 特徴をよく捉えてるって褒められてるんだって受けとっていい!?やったー!!(ヤケクソ) 「俺をモデルにするのはやめたのか?」 「や、やめたというか」 どうしても描けなかったっていうか……。 だって自分が南條先生を好きだって自覚したら、吉村くんとイチャイチャさせるのが嫌だったんだもん。 「卯月、教えてくれよ」 「わっ」 何故か俺、南條先生にベッドへ押し倒されています。 ちょ、なんですかこの憧れの萌えシチュエーションはっ!!? 俺のベッドに南條先生が乗ってるよぉぉお!! 「な、理由を教えて?」 「先生っ、耳元で囁くのは反則ですから!」 だから、耳が妊娠するんだってええ!!!! 「フッ」 「ひゃんっ!!」 わざとらしく耳に息を吹きかけられて変な声が出た。 南條先生の顔を見たら、ニヤニヤと笑っていて……からかわれたんだ、って分かった。 ちょっともう、そんないたずらっ子みたいな顔して笑ってみせるとか、さぁ。 「グフゥッ!」 「卯月!?」 俺を殺す気でしょ、南條先生。 はい、久しぶりに鼻血さん出ましたー……。

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