56 / 99

第56話 鼻血の仕事とは

好きな人の目の前で、両方の鼻の穴にティッシュ詰めてるとか…… てか、詰められたとかどうなの、俺。 こんな無様で情けなくてみっともなくて平凡な俺が、南條先生みたいな超美形攻め様とカップリングなんて、本当に一体どこに萌え要素があるんだっていう。 誰も萌えないだろうよ!!! 平凡受け、読むのは嫌いじゃないけどさぁ。 「鼻血、落ち着いたか?ごめんな、からかうようなことして」 「い、いいえ、俺の鼻の毛細血管が脆すぎるだけでして……すいません」 こんな体たらくなのに、さっきエッチしちゃったなんてほんとに信じられない。 あれってやっぱり媚薬のせいで平気だったのかな。 そして今も南條先生と俺はベッドの上にいて、向かい合って座ってる。 俺、膝を立てた先生の足の間なんかに入れられちゃって、さっきからまともに先生の顔が見られないよ。あー恥ずかしいー。 「でさ……さっきの質問の答え聞かせてくれるか?」 「え、忘れてなかったんですか」 「忘れてないよ。忘れるわけないだろ?」 えええええ!! 俺の鼻血仕事しねぇなぁもぉぉぉ!!! 「だ、だからそのー、南條先生はもう……俺のコイビト、だから……」 「だから?」 「吉村くんとイチャイチャさせるの、嫌だったんです!妄想でも描けなくって……!」 口に出したら恥ずかしすぎるんですけどぉぉぉ!!拷問だ拷問!! 南條先生、どんな顔して俺のこんな恥ずかしいこと聞いてるわけ!? ちらっと南條先生の方を盗み見たら。 「……!」 南條先生は、すごく嬉しそうな顔で俺を見ていた。そして。 「卯月……お前って本当、可愛い。大好き」 「え!ちょ、せんせ……?」 だ、だ、抱きしめられってるっ! それに今、可愛いとか大好きとか聞こえたんですけど……俺の幻聴ですか!? 「……卯月は?俺のこと好き?」 幻聴じゃなかったっ!! ちょっと待って、待って、こんなの、恥ず……う、ううーっっ! もう、恥は捨てろ俺ぇぇ!! 俺は、南條先生に抱きつき返した。 「お、俺も、先生のこと大好きですっ!すっごくすっごく、大好きです!!」 萌えるとか萌えないとか、似合うとか似合わないとか、もうそんなの関係ない! だって南條先生は吉村くんじゃなくて、俺が好きだって言ってくれてるんだから! 俺がいいんだって、言ってくれたんだから!! 平凡で地味な俺が選ばれたんだもん!! 略奪でもなんでもないもん!! 南條先生が自ら選んでくれたんだからなぁ―――っっ!!!(※必死で自分に言い聞かす卯月) 「卯月可愛い……キスしていい?」 「えっ」 「な、ホラ、目閉じて」 「あ、あうぅ……」 南條先生の綺麗な顔がゆっくりと近づいてきて……もう一度無様に鼻血を噴く前に、俺は目を閉じた。 「ンっ……」 南條先生は、俺の上唇を食むように口づけてきた。そのあとは下唇、そして唇全体に。 柔らかい唇の感触と少し荒い息、でも優しいキスに俺は思わず声が漏れた。 「っはぁ、ん……」 「卯月、可愛い……チュク、チュッ」 半開きだった俺の口の中に、にゅるりと南條先生の舌が入ってきた。そのままゆっくりと口内を舐められながら、舌を捕まえられていく。 俺は南條先生のワイシャツを両手でぎゅっと掴んで、自分からも積極的に舌を絡ませていた。 だって南條先生の舌、ほんとに気持ちいいんだもん。 あったかくて、エロくって……舌吸われるのとかもう、たまんないよぉ!! 「……あっ」 キスされたまま、ベッドに押し倒された。や、もしかしてさっきの続きとかしちゃう感じ? でも南條先生、さすがにあの媚薬入りローションはうちには持ってきてないだろうな。俺だってそんなの持ってないし。 って俺、またあの媚薬使われたいのかよ! ああでも、痛くなかったからなぁ……すっごく痒かったけど。 それにさっきシたから、ローションなくてもまだそのまま入りそうな気がするし……。 うあぁ、俺ってば期待しすぎじゃん! 「……さすがに、これ以上したらマズイかな」 「え?」 南條先生の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。 「え?いやだってここ、卯月の部屋だろ……家族だって下に居るし」 はっ! わ、す、れ、て、たぁぁぁああ~~~ッッ!!! 俺はベッドから飛び降りて、勢いよく部屋のドアを開けた。案の定廊下には母と姉三人が聞き耳を立て、撮影機器を持って待機していましたとさ。 何でここがうちってことを今まで忘れてたんだよぉぉぉ!! 俺の本気馬鹿ぁぁぁあ―――!!!

ともだちにシェアしよう!