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第56話 鼻血の仕事とは
好きな人の目の前で、両方の鼻の穴にティッシュ詰めてるとか……
てか、詰められたとかどうなの、俺。
こんな無様で情けなくてみっともなくて平凡な俺が、南條先生みたいな超美形攻め様とカップリングなんて、本当に一体どこに萌え要素があるんだっていう。
誰も萌えないだろうよ!!!
平凡受け、読むのは嫌いじゃないけどさぁ。
「鼻血、落ち着いたか?ごめんな、からかうようなことして」
「い、いいえ、俺の鼻の毛細血管が脆すぎるだけでして……すいません」
こんな体たらくなのに、さっきエッチしちゃったなんてほんとに信じられない。
あれってやっぱり媚薬のせいで平気だったのかな。
そして今も南條先生と俺はベッドの上にいて、向かい合って座ってる。
俺、膝を立てた先生の足の間なんかに入れられちゃって、さっきからまともに先生の顔が見られないよ。あー恥ずかしいー。
「でさ……さっきの質問の答え聞かせてくれるか?」
「え、忘れてなかったんですか」
「忘れてないよ。忘れるわけないだろ?」
えええええ!!
俺の鼻血仕事しねぇなぁもぉぉぉ!!!
「だ、だからそのー、南條先生はもう……俺のコイビト、だから……」
「だから?」
「吉村くんとイチャイチャさせるの、嫌だったんです!妄想でも描けなくって……!」
口に出したら恥ずかしすぎるんですけどぉぉぉ!!拷問だ拷問!!
南條先生、どんな顔して俺のこんな恥ずかしいこと聞いてるわけ!?
ちらっと南條先生の方を盗み見たら。
「……!」
南條先生は、すごく嬉しそうな顔で俺を見ていた。そして。
「卯月……お前って本当、可愛い。大好き」
「え!ちょ、せんせ……?」
だ、だ、抱きしめられってるっ!
それに今、可愛いとか大好きとか聞こえたんですけど……俺の幻聴ですか!?
「……卯月は?俺のこと好き?」
幻聴じゃなかったっ!!
ちょっと待って、待って、こんなの、恥ず……う、ううーっっ!
もう、恥は捨てろ俺ぇぇ!!
俺は、南條先生に抱きつき返した。
「お、俺も、先生のこと大好きですっ!すっごくすっごく、大好きです!!」
萌えるとか萌えないとか、似合うとか似合わないとか、もうそんなの関係ない!
だって南條先生は吉村くんじゃなくて、俺が好きだって言ってくれてるんだから!
俺がいいんだって、言ってくれたんだから!!
平凡で地味な俺が選ばれたんだもん!!
略奪でもなんでもないもん!!
南條先生が自ら選んでくれたんだからなぁ―――っっ!!!(※必死で自分に言い聞かす卯月)
「卯月可愛い……キスしていい?」
「えっ」
「な、ホラ、目閉じて」
「あ、あうぅ……」
南條先生の綺麗な顔がゆっくりと近づいてきて……もう一度無様に鼻血を噴く前に、俺は目を閉じた。
「ンっ……」
南條先生は、俺の上唇を食むように口づけてきた。そのあとは下唇、そして唇全体に。
柔らかい唇の感触と少し荒い息、でも優しいキスに俺は思わず声が漏れた。
「っはぁ、ん……」
「卯月、可愛い……チュク、チュッ」
半開きだった俺の口の中に、にゅるりと南條先生の舌が入ってきた。そのままゆっくりと口内を舐められながら、舌を捕まえられていく。
俺は南條先生のワイシャツを両手でぎゅっと掴んで、自分からも積極的に舌を絡ませていた。
だって南條先生の舌、ほんとに気持ちいいんだもん。
あったかくて、エロくって……舌吸われるのとかもう、たまんないよぉ!!
「……あっ」
キスされたまま、ベッドに押し倒された。や、もしかしてさっきの続きとかしちゃう感じ?
でも南條先生、さすがにあの媚薬入りローションはうちには持ってきてないだろうな。俺だってそんなの持ってないし。
って俺、またあの媚薬使われたいのかよ!
ああでも、痛くなかったからなぁ……すっごく痒かったけど。
それにさっきシたから、ローションなくてもまだそのまま入りそうな気がするし……。
うあぁ、俺ってば期待しすぎじゃん!
「……さすがに、これ以上したらマズイかな」
「え?」
南條先生の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。
「え?いやだってここ、卯月の部屋だろ……家族だって下に居るし」
はっ!
わ、す、れ、て、たぁぁぁああ~~~ッッ!!!
俺はベッドから飛び降りて、勢いよく部屋のドアを開けた。案の定廊下には母と姉三人が聞き耳を立て、撮影機器を持って待機していましたとさ。
何でここがうちってことを今まで忘れてたんだよぉぉぉ!!
俺の本気馬鹿ぁぁぁあ―――!!!
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