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第59話 南條先生の家族の話

そして、もう遅いので全員寝ることした。 俺は部屋の中に盗聴器やカメラがないか入念にチェックしてっと……。 「卯月、そこまでする必要はないんじゃないか?」 「南條先生は甘いです!あいつらは萌えのためなら身内の部屋に盗聴器仕掛けるなんて朝飯前なんですよ!」 「だって、別にやらしいことしなければいいんだろ?」 「う……」 それはそうだけど。 そりゃあそうなんだけどーッッ! 「だって、南條先生は俺だけのものだから、見せたくないし、話も聞かせたくない……です」 「卯月……」 うああ、言っちまった―――ァァ!! でもでも!そうなんだもんほんとに!! 南條先生の愛を囁くイケヴォイスは俺だけのものなの!!だから!! 「小さな声で話そう。それならいいだろ?」 「……わかりました」 最近はどんな小さな声でも拾う高性能の盗聴器もあるんですがって突っ込みたかったけど、野暮だからやめた。 大丈夫、仕掛ける暇なんて無かったはずだ!うん!もし見つけても後日に破壊しよう。 俺は、南條先生が既にスタンバイしていた自分のベッドにもぞもぞと潜り込んだ。 すると先生はすぐに俺を捕まえて、ギュッとその胸に抱きしめてくれる。 ふああああ!! なんたる至福ぅぅ!! 「卯月は……ほんとに家族に愛されて育ったんだな」 「え?」 「ちょっと(いや、かなり)変わってるけど……俺のことを受け入れて貰えてすごく嬉しいよ。俺の家族は、俺の性癖を受け入れてくれる人なんて一人もいなかったからな」 南條先生の、家族……? 「俺は結構いい家の生まれでさ。頭が固くて古い連中ばかりですごく面倒なんだ。でも、あのフィアットをくれた叔父……母方の弟なんだけど、その人だけは分かってくれたけどな。でも両親は俺を勘当も同然に扱った。世間体が悪いから、大学に行く金だけは出してくれたけど」 「……先生、家族にゲイだってこと隠さなかったの?」 大抵のBL漫画の主人公は家族に黙ってると思うけど。 そしてお見合い相手やらなんやらが現れて、彼氏が助けに行くっていうのが鉄板……。 でもその彼氏が思いのほか美形でいい奴だったから、家族もほだされて許しちゃうっていう王道パターン…… いや、妄想と現実を一緒にしたらダメだな。 「隠せない性分なんだ。別に悪いことしてるわけじゃないし、堂々としていたかったから」 やっぱり超絶美形の言うことは違いますな。 でもそんな性格だと今まで相当苦労したんだろうなあ、ということは言葉の端々から伝わってきた。 「ま、別に分かってもらおうなんて思ってないからいいんだけどな。そういうわけだから、卯月は俺の家族に紹介してやれないんだ。ごめんな」 「そ、そんなのいいですよ!」 「叔父はバイだからいつか紹介したいけど。あ、あれだよ。今藤堂学院(とうどうがくいん)高校の理事長してる」 「理事長!?」 あ、あのお金持ち坊ちゃんたちが通う学校の理事長っすか!! そりゃあ先生、お金持ちだわ!! まあ、ほんとの名門だったのは昔の話で、今は結構一般庶民も入れる仕組みになっているとは聞いたけど。 藤堂学院はこの近隣にある男子校で、つまりは男の花園だ。 俺もちょっと入りたいなって思ったことが一瞬あったけど、入学金は馬鹿高いし、なによりりっちゃんと離れたくなかったからなぁ……。 「誰かトーガクに知り合いとかいるか?」 「いるわけないですよ!いたら……いいんですけど」 男の花園の話がタダで聞けるからね!! でもなかなか他校の生徒と仲良くなる機会ってないよね。俺、美術部だしさ。 部活で交流試合しに行ったりしないもん。 「一応俺の従兄弟がトーガクの生徒会に入ってるんだけど、変態だから卯月には会わせたくないな」 「変態さんですか……なかなか美味しそうなキャラですね」 「ん?」 「なんでもないです!」 いかんいかん!涎自重。 南條先生がせっかく真剣な話をしてくれたんだから、話を戻さなきゃだ! 「先生……俺、別に家族に紹介されなくても全然平気ですから。むしろちょっと恐いですし」 「ははっ、そうだよな。みんなが卯月の家族みたいだったらいいのにな」 「そうなったら日本終わりますよ……」 想像するだけで恐ろしいな! まあ、心が広いっていう点だけはいいのかもしんないけど。 広すぎて腐海になってるけどな。 「南條先生、さびしくなったらいつでもうちに遊びに来て下さいね。うるさい家だけど……先生なら雨宮家の一員として喜んで迎えいれますから!」 「それって、俺が卯月の婿養子に入るってこと?」 え……俺、今なんか、とんでもないこと言ったんじゃ? プロポーズ?プロポーズ的なこと言っちゃった的な?どっしぇぇぇぇ!!! 「いやその!そのですね!!お、俺はできたら南條卯月になりたいんですけど……いやそうじゃなくって!南條先生なら俺の家族もお気に入りだから大喜びします……ってその通りだけどちょっと違くって!!」 うああああ!俺、テンパってなんかおかしなこと言ってるよぉ!! なんだよ南條卯月って!語感悪いし!! 「卯月、ありがとう。でも、ちゃんとしたプロポーズは卯月が18歳になったら、俺の方から言わせてくれ」 「え?」 南條先生はそう言って、俺をギュッと抱きしめた。 俺の方から言わせてくれって……それって来年になったら先生から言ってくれるってこと? ふえええええ!?!? まさかのプロポーズの予約、キタコレぇぇぇ!! 生きよ!!来年までは絶対不慮の事故に遭うわけにはいかん!!! 「卯月、これからも俺と一緒に居てくれるか?その、できへば高校を卒業しても……」 「そそれは当たり前です!っていうか、毎日一緒にいたいし……!」 「俺もだよ」 チュッて、おでこにキスをされた。 んあああ!おでこが妊娠するぅ!! できるもんならしてみやがれって言うな!! 「卯月……大好きだよ。おやすみ」 「俺も大好きです……おやすみなさい!」 その夜はドキドキしてなかなか寝付けないと思ったけど、南條先生の腕の中はあったかくて安心しちゃって、意外とあっさり寝てしまった俺なのでした。

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