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番外編その1 『永田隆星は腐男子ではない』
それは突然のことだった。
放課後、いつもと同じく美術室に向かおうとしていた俺の前に、違うクラスの永田氏が神妙な顔で現れたのは……。
「雨宮氏、貴殿を男と見込んでお願いがあるでござる」
「だが断る」
「早っ!!」
まだ内容も聞いてないし分かったようなことも言ってないから、「だが」って切り返しはおかしいって分かってるけど、まあかの名ゼリフを言いたかっただけだよね!
「せめて内容を聞いてから断って欲しいのでござるが……!」
「それならもっとフラットに言えばいいじゃん。男と見込んでとか、明らかにメンドクサイ頼みごとされるって分かるし。で、何?放課後の掃除当番変わってほしいとか?でもそれは無理だよね、だって俺と永田氏クラス違うしさぁ~」
残念なことにね!男だったら一番仲良しの友達なのにね!
ちなみに俺は自慢じゃないけど、クラスに仲良しの男子は一人もいないよ?
かろうじて話すのは吉村君くらいかな……。まあ彼の目的は、常に俺の隣にいるりっちゃんなわけですが。
ちなみにりっちゃんは今日掃除当番なので、今は中庭に行ってまーす。
「そんなの、雨宮氏に頼む以前に普通にサボるでござる」
「それはダメでしょ」
「そもそも掃除当番じゃないでござるし」
「なんだ。ならいいじゃん」
話は終わりかな?
そう思って美術室に向かおうとしたら。
「いやいや雨宮氏。拙者、まだ本題を何一つ語ってないのでござるが」
「だって面倒事頼まれたくないもん」
「そう言うなでござる。これは貴殿を……そう!腐男子と見込んでのお願いでござる!」
ふ……腐男子として!?
「何それ何それ!?俺何でも聞くよ!!どうしたの!?」
『腐男子』としての俺に頼みごとって何!?
そんな面白そうな話、聞かないわけにはいかないじゃん!!
「ものすごい変わりようでござるな…拙者、少し悲しいでござる」
「まあまあいいじゃん!それより何?」
「………」
「永田氏?」
永田氏はものっすごく嫌そうな顔で、重い口を開いた。
なんかもう、この時点で聞かなきゃよかったなって気もするんだけど、好奇心には勝てなかったよね。
「……一週間でいいから、拙者のか、彼氏のフリを、してほしいのでござる」
「はい?」
永田氏は一体何を言ってるんだろうか。
やっぱり面倒ごとだったから聞かなきゃよかったと思う反面、なんでそんなことを言いだしたのか理由を知りたかった俺は、つい親身になって永田氏の話を聞くことにした。
まあ、なんだかんだ言って普通に友達だしね!
*
「おっ、男から告白された……!?」
ここは美術室……じゃなくて、なんとカラオケです。
永田氏のアニヲタ仲間も美術部なんだけど、彼らには知られたくないようなので俺がこの場所を選びました。
永田氏はひどく蒼褪めた顔をして、俺の聞き返した言葉にコクンと頷いた。
こんなに弱々しい永田氏は初めて見る……。
もっとも、顔が蒼褪めている理由はそれだけじゃないんだけど。
「相手は誰!?ねえ誰!?誰ったら誰なの!?」
「でも常識的に考えて、罰ゲームじゃないのかな~??」
「りっちゃん様、そのツッコミはまだ早いよ!あたしも思ったけど!!」
「………」
うっかり腐女子三人組にもバレてしまったからだろう。
だって仕方ないじゃん!
あいちんとかなやんは何故か今日に限って俺を教室まで迎えに来るしさ、りっちゃんは何故か吉村くんが掃除当番代わるって言うもんだから普通に任せてきたらしい。
そんなわけで、5人で部活を休んで学校近くのカラオケに来ているのでした。
今日は南條先生も放課後用事があるって言ってたから、どうせ会えないしね……しょぼん。
「単なる罰ゲームなら、お前らはおろか雨宮氏にも絶対に言わないでござる」
「そうだよみんな!永田氏はガチで悩んでるんだからまだからかいモードに入らないで!?」
「まだってなんでござるか、最初からからかうなでござる。つーか腐女子来んな」
「いやぁ、単なる言葉のあやってやつ?」
俺だってからかいたい気は満々だけど、そしたらホントに話してくれなさそうだしね!!
貴重な男子の友達だから、出来るだけ味方に付いてあげたいのです。まあ、内容によっては向こうに転ぶ気満々なんだけど。
「で、その相手とは?」
りっちゃんが永田氏に話を促した。
「3年の、八代 という男でござる」
「3年の八代先輩?……って誰だろ。俺名前聞いてもわかんないや。部活とか入ってる?」
俺の返事に三人はうんうんと頷く。他の女子と違って、普段からカッコイイ先輩チェックとかしてないもんねぇ、俺ら。一部の有名人は除くけど。
二次元の攻様を愛してるし、それに俺は南條先生が好きだし!
「サッカー部でござる」
「さ、サッカー部ぅ!?」
「そ、そんな、校内ヒエラルキー頂点のサッカー部の爽やかリア充野郎に美術部の陰キャ美少女ヲタ永田隆星氏が告白されたぁ!?そんなの誰だって罰ゲームだって思うよ!?ありえないから!!いやマジで!!」
「り、りっちゃん!いくら永田氏だってそこまで言われたら泣くから!そのくらいにしたげてよぉ!」
俺は可哀想な永田氏を抱きしめながら擁護した。
りっちゃんは可愛い顔してたまにサラリと爆弾発言するからね!
爆弾っていうか、毒舌?
あいちんとかなやんが俺と永田氏を撮りまくってるけど、気にしない。
「雨宮氏、邪魔でござる。それと別に泣かないでござるよ、拙者だって最初は普通にそう思ったでござるし……だけどフルネームでは呼ぶなでござる、池田氏」
「永田氏は強いね……」
邪魔って言われたので(ショボン)、俺は永田氏から手を離した。
「ダテに毎日クラスの女子からキモヲタ死ねと罵られてないでござるからな!」
「それ、あんまり自慢しちゃいけないよぉ……」
「三次元の女に毒吐かれたところで痛くも痒くもないでござる」
永田氏は『ふん!』と鼻で笑った。彼のメンタルは俺が想像してたより強いらしい。
俺だったら面と向かってそんなこと言われたら泣いちゃうところだよ!まあ言われないけどさ!!
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