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〈2〉八代先輩について
「八代先輩って、サッカー部のエースストライカーの八代先輩のことかなぁ?」
突然かなやんが言った。
あれ?もしや結構有名な人だったりするの?
エースストライカーとか超カッコイイ横文字だな!
「知らんけど、多分そうだと思うでござる。知らんけど」
「有名な人なの~?」
知らんけどを連発する永田氏の横から、あいちんがかなやんに聞いた。
「その人がっていうか、あれだよ、モデルの千歳 シンジ先輩の親友らしいよ!よく二人で居るの見かけるもん」
「「「ええええ!!?千歳先輩のぉ――!?!?」」」
今度は俺、りっちゃん、あいちんが三人同時に悲鳴を上げた。
だって3年の千歳シンジ先輩と言えば、雑誌とかCMにも出まくりの我が校が誇る超人気モデル!!いわゆる芸能人!!
その神のような完璧な造形から、付いたあだ名はズバリ千歳神 !!きっと校内で知らない人はいないと思う!!
「千歳って誰でござるか?男なんて毛ほども興味ないから知らんでござる」
「逆にすごいな永田氏!!」
普通に生活してたら日常的に話題に上ってくるぞ!千歳先輩今度はあのCMに出てたねーとか、今朝あの雑誌に出てたねーとか。
うちのピン子こと皐月姉さんがめっちゃファンだしさぁ。
あー……でも俺が詳しいのって、周囲に女子が多いからかな?でも千歳先輩は全然アホみたいにチャラくないから、男子でも憧れてる人は多いと思うんだけど…。
「千歳先輩の親友が永田氏に告白してきたの!?」
「ありえなああい!毎日スーパー美形様の隣に居たら目が悪くなるもんなのかなあ!?」
「逆にもう感覚が麻痺しちゃってるんじゃない?常人なら千歳神の隣にいるのもしんどいだろうし……うん、八代先輩がおかしくなってるんだよ」
「あ~めっちゃありえるそれー!!」
「あのー君たち?永田氏のメンタルもそろそろ折れるから黙ってくれる?」
女子ってこわい。
永田氏、鉄のメンタルでもちょっと肩とメガネがプルプルしてきてるから。
目の前でディスられまくって普通にかわいそうだから。
それに永田氏だって、トレードマークの分厚い牛乳瓶底メガネを外したらきっと少女漫画みたいに可愛く変身するはずなんだ……!
サッ (※永田氏のメガネを奪う卯月)
「あっ」
「あん?いきなりメガネを取るなでござる、雨宮氏」
「ごめんなさい」
めっちゃ普通の顔でした。(期待してた皆様ごめんなさい☆)
そして、永田氏はもうヤケだと言わんばかりに経緯を話してくれた。
なんでも一か月ほど前、楽しみしてた美少女ゲームの発売日だったから部活もサボって急いで帰ろうとしてたところ、八代先輩が校門のところで女子のファンに囲まれていたらしい。
それでなかなか通れなくてブチ切れた永田氏が、
『我が愛しのあこりんの足元にも及ばない薄汚いメス豚どもが通行の邪魔だァァ!!いっそ死ねボケがァァ!!』
と力いっぱい叫んだところ、一斉に女子が引いてったらしい。
うん、まあ俺だって引くね絶対。
その後は勿論女子たちから罵詈雑言を浴びせられたらしいけど、永田氏はどこ吹く風って感じでさっさと校門を後にしようとした……その前に、
『貴様もメス豚共に囲まれるのが分かってるなら最初から裏門を使え!!一般人の迷惑なんだよ!!』
と、八代先輩にも一喝したらしい。
そしたらその二週間後に……
「拙者のあの時の啖呵に惚れたから、是非付き合って欲しいと言われたのでござる」
「「「「……」」」」
「もちろん拙者はその場で、男なんか興味ねえ気持ち悪いんじゃボケカス死ねと罵ったが、何故か奴は全然アプローチをやめないんでござる。帰りに待ち伏せしたりとか……教室まで来たりとか……今日はいなかったでござるが」
「「「「……」」」」
シーン。
こんなに静かなカラオケボックスって俺、初めての体験です。普段はきゃいきゃいとうるさい腐女子三人衆も、珍しく黙って考え込んでいる。
でも彼女たちが何を考えてるのか、俺には手に取るように分かるよ……。
「えーっと……つまり八代先輩は永田氏に抱かれたいのかしら?年上ドM受け……ほう」
「はいはーい!私は年上攻めとツンデレ受けが好きだから、八代先輩は断然攻め派で~す!普段はヘタレだけど、ベッドの上じゃガラッと変わるの!きゃっ」
「あたしもあいちんに一票!なにそれ激萌え~!!」
「う~ん、俺はリバかなぁ……」
「ええっ!うっちゃんリバなの!?珍しい!」
「だって永田氏はノンケだし、いきなり受けは難しいかなーって……でも俺もツンデレ受け好きだから、じゃあリバかなって」
「うーん、これはじっくり議論する必要がありそうね」
「お前ら……」
ごめんね、永田氏……俺たち、腐ってるんだよ……。
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