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〈7〉二次元の嫁は三次元の誰かの嫁

 確認しようとして永田氏の方を見ると、永田氏の視線は美少女に釘付けだった。  三次元の女性には芸能人だろうと全く興味のない永田氏でも見惚れるほどの美少女ってすごいな……!  と思っていたら。 「……リアルあこりんでござる……!」 「え?」 「わが愛しの二次嫁、あこりんが三次元に存在したなんて……ジーザスゥゥ!!マジか!!」 「ちょ、ちょっと永田氏?落ち着いて??あと、さっき運ばれてた人は八代先輩なの?」 「多分違うしそんな奴今はどうでもいいでござる!!」  どうやらピンク髪の美少女が、永田氏の『俺の嫁』にそっくりらしい。  いつもはまあまあ冷静な永田氏がめっちゃわなわなしてる……いや、プルプルしてる。  そしてめっちゃ早口だ。まさにオタク! 「あ、のんちんすずちん。この人たちは俺のレイヤー仲間とその学校の友達なんだ☆全員南空高校の生徒だよ☆」 「えっ……じゃあ、相手校の応援に来てるってこと!?うわあ、トーマ先輩が選手を蹴っ飛ばしちゃってすいません!」  美少女が勢いよく俺達に頭を下げて、俺達は一斉にハッとした。  ていうか、ちょっと前から思ってたんだけど……。  俺がそれを言おうとしたら、俺が口を開く前にりっちゃんが言った。 「ねぇきみ、もしかして男子?」 「え?もしかしなくても男子ですけど」  やっぱり!!!  美少女って思ってたけど、よくよく見たら男の子だったんだよ!!  俺の腐男子としての勘は間違ってなかった!! 「やっぱり~!こんな可愛い子が女なわけないって思ったんだよね」 「それな!あたしも思った!」 「すっごい可愛い男の子だね!っていうか男の()?」 「お、俺も分かってたもんね……!」  あいちんとかなやんも分かってたようだ。さすが腐女子!  俺たちの会話に、美少女風美少年は疑問符を浮かべまくった顔をしている。 「お、お、男だと!?リアルあこりんが!?」  そして、この事実にショックを受けているのは永田氏ただ一人。  俺の嫁のそっくりさんが男ってやっぱりショックなのかな?俺にはよくわかんないや。  別に付き合えるわけじゃないんだから、どっちでもいいと思うんだよね(ひどい)  彼らは、ピンク頭の美少年の方が斉賀希(さいがのぞみ)くんで、黒髪こけし少年の方は山田清白(やまだすずしろ)くんと名乗った。  うーん、名前まで可愛い!  あいちんが言ったように、わざと男の娘をやってるんじゃないよな……?  すると、グラウンドの方から「ノンターン!」と野太く呼ぶ声が聞こえてきた。声の方を見ると、さっき退場したアサヒナという人がこっちにズドドドと走ってきてた。  近くで見たら更に怖いんだけど……!つーかでけぇな!!なんちゅーガタイしてんだ!! ほんとに同じ高校生か!?(※卯月達と同学年)  山に籠ってた格闘家とかじゃないの!?ってくらい、野獣臭というか野生児臭がパネェな……!良く言えばワイルドってやつね。  あ、でも顔はまあまあカッコイイかも。ノンケの男が憧れる部類ですね。  俺は全く好みじゃないけどね。好みは南條先生だから。  アサヒナさんは、そのいかつい風貌に似合わないニコニコと子どもみたいな笑みを浮かべながら、斉賀くんに話しかけてきた。まるでここには彼一人しか居ないみたいに。 「なあノンタン見てくれたか?俺の華麗なるキックを!!」 「はい、ボールじゃなくて人を蹴るところをですけど」 「なぁなぁかっこよかった!?」 「できれば普通にボールを蹴る姿が見たかったです」  一目見て分かったけど、この人斉賀くんが好きなんだな!?  めちゃくちゃハート飛び交ってるし。  ていうか、もしかしてこのお二人って既に…… 「あ、言ってなかったけど、この人がのんちんの彼氏さん☆」  俺たちの期待に満ち溢れた目を見て察してくれたのか、森君が補足してくれた。  やっぱり―――!!(再)  パーソナルスペースからしてカップルだと思ったよ!!  うわあああ!リアルヤンキー(決め付け)と美少年のカプだ、すげぇぇぇ!!!  俺と腐女子三人はめちゃくちゃキラキラした目でその二人をじろじろと観察してしまった。  その視線に気付いたのか(そりゃ気付くよね)アサヒナさんが俺たちの方に目を向けた。 「あん?こいつら誰だよ、見ねぇ顔だな。つーか女子がいるし!めずらしっ!」 「トーマ先輩、この人たちは南空高校の生徒さんで、今日は相手チームの応援に来てるんですよ!そんなニコニコした顔で反則自慢(?)したらダメですっ!」 「ええー、だって俺サッカー部の主将にとりあえず相手チームをビビらしてくれって言われただけだぜ?出番すぐ終わったけどよー。でもまァとりあえず謝っとくわ。悪ィな!」  うわあ、全然悪いと思ってない感じがビンビン伝わってくる!  けどぶっちゃけそれはどうでもいいです! 「あ、あの、良かったら写真撮ってもいいですか?」 「私も!」 「あ、じゃあ私も!」 「みんなズルい!あたしもー!」  俺が頼んだら、りっちゃん達もついでとばかりにささっとカメラを構えた。  さすがにみんないいカメラ持参だね!  なんてったってここは腐男子女子の憧れの地、藤堂学院だもんね!! 「は?写真って俺の?」 「できれば斉賀くんとの2ショットをお願いします」 「なんでだよ?」 「アサヒナさんすっごい良い身体してるしカッコイイので!斉賀くんは可愛いし!俺たち絵を描く人なんで資料にさせてください、絶対に悪用はしませんから!」  リアルでこんなガタイのいい人を近くで見る機会ってそうそうないし!!  しかもサッカー部のユニフォーム着てるし、貴重な資料だ!この人たちリアルカプだしね!  次回の新刊はこの人たちをモデルにしても良さそうだ……王道学園BL! 「ふーん?まあ、写真撮るくらい別に俺はいいけどよ?」  俺がべた褒めしたせいか、アサヒナさんは少し照れてるような、まんざらでもない感じで引き受けてくれた。 見かけどおり単純なお人らしい。(失礼)  怒らせたら滅茶苦茶怖そうだけど、案外いい人なのかもしれない。

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