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〈10〉遅れて来たボーイズラブ

「……きみは、すごいね」 「え?」  校門を出たところで、後ろから付いてきていた八代がポツリとそう言った。   まず来てたことに驚いて、思わず振り向いてしまったでござるよ。  八代は、なんともいえない顔で拙者を見ていた。  羨ましいような、尊敬しているような……切ない表情で。 「永田君は他人に嫌われるのが恐くないの?」 「別に、好かれたい人間にはそれ相応の態度を取ってる。けど、あいつらみたいに人を見かけで判断するような連中に好かれたいとは毛ほども思わないし、何を言われても平気でござる」 「そっか……強いんだね」 「好き嫌いが激しいだけだ」  別に強いとかすごいとか言われる謂れはない。好き勝手に生きてるだけだから。  それで多少生き難くなってるというのも事実と言えば事実だが、別にそこまで日常生活に支障は無いでござるしな。  拙者には一応友達もいるし、最愛の嫁も…… (あこりん……)  ああ、嫁はいなくなったも同然だったな…。  思い出すのも辛いから、ゲームもグッズも土日の内にヤフオクに出したでござる。  捨てるという選択肢は無かった。傷心でも拙者は現金な奴でござるよ。 「……俺ね、親友に嫌われるのが恐くて、とうとう好きだって言えなかったんだ」 「は?」  八代は俯いて歩きながら、自分のことを語りだした。 「高校に入ってから、ずうっと好きな奴がいたんだ……だけど俺はいい友達どまりで、告白なんてする勇気はとてもじゃないけど無かったよ」 「それって、千歳シンジのことか?」  千歳シンジの名前を出したら八代は少しびっくりした顔をしたが、『はは、やっぱり分かるよね』と言って笑った。  ……なんで笑うんだ、こいつは。 「シンジは今やもう芸能人だし、女の子にも物凄くモテるし……俺なんかが告白していい存在じゃないって思ってた。言っても無駄だから、この想いは忘れられるまで秘めておこうって思ってた。でもさ……」 「でも?」  ああ、拙者はなんでこいつの話を素直に聞いてやってるんだろうか。  別に好かれたくもない、むしろ嫌って嫌われたい人間だというのに。  我ながらお人よしで嫌になるでござる……。 「最近、シンジに恋人が出来たんだ。それがさ、たとえば業界の超美人モデルとか女優なら分かるし、納得もできるよ。けど……相手は俺と同じ、モデルでもない一般人の男だったんだ」 「……!」 「そんなのってないよな……もしかしたら、俺にもチャンスがあったかも知れないのにさ……って一度考えだしたらもう後悔が止まらなくて、死にたくなってきて」  さすがにここで『じゃあ死ね』とか言う程、拙者は人でなしではござらん。  けど、なんて言っていいか分からない。  慰めるのもおかしいし……。  自業自得だとでも言うか?いやいや、それも鬼だな。  それにしても千歳シンジがゲイだったとは、またあいつらが喜びそうなネタでござるな……。 「そんなときにね、君に会ったんだ」 「へっ?」  思わず、素っ頓狂な声が出てしまった。 「初めて会った時、君は俺に怒鳴っただろ?初対面だったのに」 「あ、あの時はかなり急いでたからであって!」  別に相手が誰だって同じことを言っていた。八代だったからってワケじゃない。  それにいつでもあんな態度をしてるワケじゃないし……って、拙者は誰に言い訳してるでござるか! 「本当にびっくりしたんだ……さっきもだけど、女の子相手にあんなに強気で言い返せる男がいるなんてことが信じられなくってさ。それが強烈すぎたのか、あの日から俺は君のコトしか考えられなくなっちゃって」  ……あれ?  なんか怪しい雲行きじゃござらんか……?  いや、前にも一度同じことを言われたが。  すると、八代はいきなりずいっと拙者との距離を詰めてきて、あっけにとられている拙者の両手を力強く握ってきた。(ちなみに身長差は約20センチはある、チビって言うな)  そしてそのまま、拙者の手を自分の胸の辺りまで持っていった。 「本当に君が好きなんだ!俺はもう、毎日シンジより君のコトばっかり考えてるよ!!」 「ヒェッ」  あ、なんか変な声が出た。  「永田くん、俺は本気で君のことが好きなんだ……真剣に俺と付き合うことを考えて欲しい」 「いやいやいや何をまたトチ狂ったこと言ってるでござるか!?というか……ッ!」  ここ!!めちゃくちゃ往来でござるけど!?  帰宅中の生徒とかに無茶苦茶見られてるでござるけどォ!?  写メ撮ったり録画してる奴もいるでござるけどォォォ――ッッ!? 「俺は真剣なんだ!もう二度とあんな死ぬほどの後悔はしたくない!いつでも自分の気持ちに正直でいたいと思っている、君みたいに!」 「んなの拙者には関係ないでござるゥ!!貴様の身勝手に巻き込むなァァ!!」  目立つのは苦手でござるがこんな不本意な目立ち方は更にノーセンキューでござる!!! っていうか運動部だけあって力強いなおい!!  全然手ェ振りほどけないんでござるけどォォ?  あまりの体格と力の差にも泣けてくる!!  その時だ。 「永田氏!!」  拙者に救世主が現れたのは……! 「あ、雨宮氏……っ!?」  それは自分の欲望を優先するけど基本的には多分いい奴、我が生涯の友であるあざと系腐男子、主人公である雨宮卯月氏だった。  突っ込みは受け付ける。

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